mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

小暮写眞館 宮部みゆき レビュー ネタバレあり

 

「小さい子供が死ぬなんて、あっちゃならないことだから。おっかないことだからね。誰か責任者をつくらないと腹が収まらなくって、言いたいこと言う連中はいるんだよ」

(下巻p331)

 

小さい子供が死んだなんてニュースを聞くと、例え自分の子でなくても悲しくて辛くて、そしてご両親やご家族のことを思うと胸が締め付けられる。どうして・・・と。

 

そして、誰が悪いのか?という論争が勃発する。亡くなった原因が何であれ、矛先は親、とりわけ母親に向きがちだ。ちゃんと母親が見ていなかったから。ちゃんと母親が躾けていなかったから。と。

 

亡き小暮氏の写真館を購入し、少し改築して住んでいる花菱一家。花菱家は7年前に4歳の長女、風子を亡くしている。風子が亡くなった時、親戚一同に母親は責められそれ以来親戚付き合いはほぼ無い。

 

子供が亡くなった時、親は一番に自分を責めるだろう。自分がしっかりしていなかったから。自分がちゃんと見ていなかったから。全部自分のせいだ・・・と。他人に言われるまでもなく、自分でそう思ってしまうだろう。

 

そんな辛く暗い過去を背負った花菱家だが、小暮写真館を購入したことからたくさんの縁で様々な人と出会い、繋がっていく。おせっかいと呼ばれるくらい“親切”な人々。いや、一番親切なのは花菱家の長男英一だろう。風子が亡くなったことは一生忘れられない出来事だが、少しずつ少しずつ皆の心が優しさで癒されていく。

 

花菱家父の親戚たちは大嫌いだし、読んでいて腹立たしいことも多々あったが英一の一言でスッキリ。誰かを標的にして自分の歪んだ正義感を振りかざす愚かな者は、一生イライラして人の悪口を言いながら苦しんで死んでいけばいい。

 

最後の『解説』で意外だなと思ったこと。それは宮部みゆき先生の『模倣犯』のお話。読んでいない方はぜひ読んでみてほしい一冊だ。文庫本で5作も続く長編!

 

 

模倣犯では惨たらしい殺人が起こるのだが、宮部先生は書き終わった後にかなりの疲労感と自己嫌悪の中にいたとのこと。そこで一休みして、人の優しさに触れる今作が出来上がったのだろう。なんて想像をしてしまう。