mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

ツナグ 辻村深月 レビュー ネタバレあり

 

死者に一人だけ会えるのなら、誰と会うだろう。そして何を伝えるだろう。それともまだまだ先にとっておくだろうか?そんなことを考えながら読んだ人も多いだろう。かくいう私も今の時点で死者に会えるのなら・・・なんてことを考えながら読んだ。

 

今作では亡くなった大好きだったアイドル、親友、母親、婚約者・・・など、大切だった人に生きている者が会いたいと願い一晩だけ会うことを許される。

 

私が一番心に残ったのは『親友の心得』。

 

嵐と御園。親友同士だけど、いや、だからこそ嫉妬してしまう。顔立ちが整っていて演技力もある嵐。いつも嵐を立てる御園。でも劇の主演に選ばれたのは御園だった。嵐の知らないアパレルのブランドに詳しい御園。誰とでもすぐに仲良くなれる御園。自分の方が上なのに!とどこかで御園を見下している嵐。

 

嵐が水飲み場で水を流して、その翌日。御園は事故で亡くなる。私のせいだ!と思い警察や水飲み場のおばさんに水が流れていたのではないかと確認する嵐。でも、水は止められていた。自分のせいではなかった。

 

けれど自分が水を流したことを御園は知っているのだろうか?口止めしなければと思い、嵐は御園に会うことを決心する。そして使者のアユミにコートのブランドまで言っちゃうか。あぁ、嵐はどこまでも自分勝手だ。御園が死んでからもまだ上に立ちたいと思っちゃうのか。

 

美園と会い、水を流したと告白し謝って欲しいなと思いながら読むも実現されなかった。最後、御園がアユミに託した伝言にはゾッとした。もし嵐が御園に謝罪していたら、私が死んだのは嵐のせいじゃないよってことになるし、謝罪していない場合は、私は嵐の殺意を知っていたよということになる。嵐は一生自分の過ちを背負って生きていかなくてはいけないのだ。

 

人間は皆完璧ではないから失敗もするし、人を傷つけてしまったり、後悔することも多々ある。皆それぞれ何かを背負って生きているし、生きていかなくてはいけないのだと思う。後悔し、心を痛めたからこそ強くなれるし優しくなれる。

 

私が一人死者と会えるのなら父に会いたいな。ごめんね、とありがとうを伝えたい。そして生前はできなかった本の話をたくさんしたい。私が本を好きになったきっかけは父。子供の頃、父がお誕生日に本を買ってきてくれるのが嬉しかったし、父の書斎に並ぶ本を子供の頃こっそり拝借して読むのも楽しかった。

 

辻村先生、『ツナグ』を通してまた父と会えたような気がします。