ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。辻村深月 レビュー ネタバレあり
親と子の関係に正解はあるのだろうか。
多くの親はきっと子供には幸せになって欲しいと思っているのだと思う。でもその愛情も行きすぎると過干渉となり、子供が自ら考える自由を奪ってしまう。だからと言って子供のことをずっと放ったらかしにしておくのも問題だ。その匙加減が難しい。
一見仲の良い親子のように見えるチエミと母親。しかしながらその中身は過干渉を超えて共依存関係。親子で仲が良いことは素晴らしいことだが、親子でも別人格を持つ他人。考え方が違って当然。これを理解せずに自分の意見を押し付け従わせようとなんてするといつか関係は破綻する。『家族だから』という甘えは長く続かないものだ。
今作で最も目を引いたのは、みずほを含め女友達の微妙な関係。友達だけど、好きだけど、嫉妬する、値踏みする。自分の方が上か下か。付き合っている男性が良いか悪いか。見た目がどうとか、持っているバッグがどうとか。結婚しているとかしていないとか。同じ幼少期を過ごしていたとしても、30歳にもなると皆バラバラの人生を歩んでいるものだ。
結婚する、しない。子供がいる、いない。仕事をしている、していない。本当に人それぞれ。どれが良いとか悪いとか、上とか下とかは無いけれどつい他人が羨ましくなる瞬間がある。その描き方が本当に上手い。自分の心の中を全て見透かされている気分になった。
「ねぇ、私、何にもない」p474
チエミがみずほに言った言葉。仕事も恋も何もかもうまくいかない。自分には何もないって思っているのだろうけれど、親友がいるじゃない!こんな状況になっても探してくれているみずほがいるじゃない!何もないことないよ!そんなに自分を卑下しないで・・・
事故とはいえチエミの母親が亡くなったのは悲劇だったけれど、これからチエミは自分の頭で考えて、自分の力で生きていくんだ。そんな未来が見える結末がとても清々しかった。
30歳前後って色々と選択肢があって迷うけれど、自分に何もないって思う瞬間もあるけれど、何もなくてもいいんだよって伝えたい。結婚しているから幸せ?子供がいるから幸せ?仕事しているから幸せ?どれも一概にyesとは言えない。自分で選択して自分で決めたなら大丈夫だよ。