東京すみっこごはん 成田名璃子 レビュー ネタバレあり
どんな時でもお腹は空く。悲しい時も、苦しい時も。食欲なんて無いと思っていても、美味しそうなお出汁の香りを嗅ぐとお腹が空いてくる。生きていく上で食ほど大切なものはない。
今作では、いじめに悩む高校生、結婚したい独身女性、目標を見失ったタイ人留学生など自分の居場所がうまく見つけられない人たちが主人公だ。誰にも相談できず、一人悶々と悩み出口が見つからない。きっと生きていたら皆一度は経験していること。そんな時に“すみっこごはん”と掲げられた古い民家でひょんなことから皆が出会い、少しずつ自分を取り戻していく。
すみっこごはん。共同で台所を使い、くじ引きで当番を決め、くじに当たった人がご飯を作りみんなで食べる。メンバーはプロのシェフもいれば高校生もOLもいる。そこにはレシピノートが置かれていて、お料理が得意でなくてもそのノートを見ながら作ればいい。自然と誰かが誰かを手伝い、そこで交流が産まれていく。
いいなぁ。読んでいる間に何度呟いただろう。学校で友達とうまくいかなかった時、毎日両親の喧嘩を横目に冷凍食品を一人で食べていた時、会社でイジメに遭ってしまった時。そんなどうしようもなかった時に私もふらりと行ってみたかった。
料理をし、人と話し、誰かと一緒にご飯を食べる。普通のことかもしれないが、何よりもかけがえのないこと。自分の居場所を見つけられなかった人々が少しずつ自分を取り戻していく姿がとても眩しく、素直に幸せな気持ちになれた。すみっこごはんがどのようにしてできたかが分かったときはもう号泣!
ただこの作品を読んで一つ困ったことがある。それはただただお腹が空くこと。今無性にクリームコロッケが食べたい。明日のご飯はクリームコロッケかな。幸せな気持ちになりたいときに再読したい。