mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

ふちなしのかがみ 辻村深月 レビュー ネタバレあり

 

トイレの花子さんこっくりさん

 

今思い出すとなぜそんな話を夢中で信じていたのだろう?と思うけれど、子供の頃特に女の子はみんな信じていたんじゃないかな?怖いけれど知りたい、体験したいという怖いもの見たさ。今作はそんな気持ちを刺激される5編からなる短編小説集だ。

 

踊り場の花子

幽霊やお化けよりも生きている人間の方が怖い。相川が見た小谷チサ子はこの世のものではないのだろうなぁと薄々感じていた。最初のページで書かれている言葉。

 

幽霊を見る人は、それを見るだけの理由を持つ。

目の前にあるのは、あなたを映す鏡である。

 

後ろめたいことがある相川英樹が見た小谷チサ子。青井さゆりを虐待していたのが相川だと知った時の絶望感よ。だからこそ、涼しい顔をして教師を続けている相川がチサ子に追い詰められていく様が爽快だった。

 

ブランコをこぐ足

小学五年生にもなるとスクールカーストなるものが生まれる。その下位から上位に返り咲いたみのり。そんな彼女が一線を超えてしまう。ブランコの前の柵のこちら側から向こう側へと。こちら側から向こう側へと行ったらどうなるのだろう・・・という怖いもの見たさ。

 

そしてラストが本当に怖かった。茜はお母さんが死んでしまったこと、そして幽霊になって会いに来てくれなかったこと、そしてキリエと喧嘩をしてしまい学校に行きたくないと思ったこと。そんな心の隙間があって、誰かに優しくしてもらいたくて。そしてみのりが向こう側へ行ってしまったことも手伝って自らも・・・悲しい結末。

 

おとうさん、したいがあるよ

意味不明。理解できない。けれど何度も読んで自分なりの答えを出してみた。認知症を患った祖母宅の片付けを両親とともにするつつじ。その際に複数もの死体が祖母宅から見つかる。驚きつつも淡々と死体を燃やす両親。そして次の片付けの際にはその様子を忘れている・・・?

 

そして元彼の浩文が、祖母宅にある死体を発見した郵便配達員を殺害?と思っていたけれど、殺害に使ったとされるウサギ柄のピンク色のタオルは濡れたりよれたりすることもなく祖母宅に置かれている(p 194)。ということは、浩文が祖母宅に来たというのはつつじの妄想なのか?郵便配達員はただの事故死?

 

そういえば、この家の死体の片付けの最中、私は蝿を一度も見なかった。(p196)

 

てことは、複数の死体はやはりつつじの妄想?燃やしたはずのペロの犬小屋の健在(p192)。両親は死体はねずみの死体と言い張る。つつじが大好きだった祖母宅が荒廃していて、それが悲しくて受け入れられなくて、そしてつつじが見た妄想だったのかな。そういう風に私は納得しようとしているけれど、真相は?他の意見があればぜひ教えてください。

 

ふちなしのかがみ

鏡のこちら側と向こう側。その境界線が曖昧になってくる。縁の無い鏡はその象徴なのだろう。

 

主人公の香奈子=高幡ユウイチロウの妻

 

香奈子は鏡を通して今の自分と未来の自分を見ている。未来の自分は自分の子供の音楽の才能の無さに絶望し、虐待し、愛人のいる夫ユウイチロウとは別居している。現在の香奈子はユウイチロウの愛人の子供冬也に片想い中。

 

この時点で時間の感覚がおかしい。未来と現在の境界線が曖昧になり、未来と現在を行ったり来たりしている状態。そして最終的には自分の子供を殺害してしまう。現実の世界を何かに委ねるのではなくて、自分の力で動かしていこうと意思が大切なのだろうね。

 

八月の天変地異

こうであればいいな、こうなればいいな。子供の頃はそう思う気持ちが強すぎて嘘をついてしまうことって誰しもあることじゃないかな。素敵な友達がいればいいな、大好きな友達の病気が治って一緒に遊べるといいな。そんな子供たちの純粋で、純粋すぎる気持ちが現れた今作。

 

純粋すぎて真っ直ぐでなんだか涙が止まらなかった。

 

同じ作品を読んでも読み手によって捉え方は違う。そして時を経て同じ人が同じ作品を読んでも捉え方は違う。どの短編も読者に結末を委ねたように感じた。今作を読まれた方はぜひ感想を教えてください。たくさんの人と意見交換できると嬉しいな。