mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

ペテロの葬列 宮部みゆき 読了 ネタバレあり

 

お金が欲しい。

 

人にすごいと思われたい。自分を馬鹿にしていた人たちを見返してやりたい。目立ちたい・・・

 

と、人間には欲がある。

 

『お金が欲しい』

 

ほとんどの人間がこう思っているのではないだろうか?

 

お金があれば、欲しいものを買うことができるし、将来の夢のために進学することもできるし、亡くなる前に良い環境で過ごせる老人ホームにも入ることができる。

 

お金。これは永遠のテーマ。

 

お金が欲しいという欲につけ込まれ、怪しい投資話に騙されてお金を失う人々とは対照的な杉村家の裕福さ。会員制のブティックに娘の学園祭のドレスを買いに行く菜穂子。雨が降ってきたから、父の秘書に車で迎えにきてもらう菜穂子。体が弱いからと一度も働いたことがない菜穂子。それでも都内の一等地の数億円の家に住まうことのできる菜穂子。

 

お金はあるんですよね。あるところには。

 

さて、今作は『誰か』『名もなき毒』に続く第三作目。

 

 

主人公の杉村がバスジャックに巻き込まれることから物語は始まる。が、3時間ほどで杉村は無事釈放される。あれ?これからどうなるの?と思っていると思わぬ方向に物語は展開していく。

 

バスジャックの犯人、佐藤はかつてトレーナーと呼ばれる仕事をしており、その内情は簡単に言えば人を洗脳すること。そのブームが去れば、ネズミ講のトップに人を洗脳するノウハウを教え莫大のお金を得ていた。

 

ネズミ講の加害者は被害者でもある。自分は悪いことをしているという認識がないままに人を騙している。そしてトップが捕まれば、自分が利益を得ていたにもかかわらず幹部陣たちですら被害者ヅラをする。そんな人々が許せないがために、佐藤はバスジャックを実行した。

 

ネットがある今の世の中では事件が起こると、被害者の名前も加害者の名前も何者かに暴かれネット上で公になる。これがきっと今の世の中での一番の制裁だ。被害者ですら、叩かれる。この真実を狙った佐藤の犯行はさすがだった。

 

善良な人々が騙されてお金を失う一方、何の努力もなしにラッキーで莫大な資産に恵まれる者もいる。そう。今シリーズでは菜穂子が一番の例だろう。

 

今作では特にその対比が浮き彫りになり、菜穂子に対する読者の視線も一層鋭くなっているにもかかわらず最後の一撃。お金持ちの何の苦労も知らないお姫様が浮気をして善良な夫である杉村が振り回され傷つけられる・・・という最後。浮気相手の橋本も立場を失う。

 

菜穂子も父も反省するそぶりもなく、これからも何不自由なく生きていくのだろう。許せない!なんて思う人も多いだろうが、世の中ってきっとそんなもの。権力やお金がある人、つまり上級国民が犯した罪なんて闇に葬られるし、世に出てしまったとしてもたくさんの人が守ってくれる。ほら、あの事件とかね。皆様も思い当たる事件があることでしょう。

 

前半のバスジャックの事件が無かったことにされそうなくらい、最後が衝撃!もうお姫様はお城でたくさんの人々に守られながら生きていけばいいんです。一般の市民に迷惑なんてかけちゃいけませんよ。お城で何不自由なく過ごして、お城の外のことなんて考えなくていいんです。ましてやお城の外に出るなんて考えちゃいけませんよ。一般市民にとっては迷惑でしかないし、振り回されるのはもうたくさん!

 

読後感が悪かった方も多かったのではないでしょうか?私も読後はしばらく放心してしまった。もう夕ご飯を作らなきゃいけないのに・・・なんて考えながら家事に戻っても放心状態。

 

いやはや、宮部先生。読者を放心させるのがあなたの狙いなのなら、私はまんまとハマってしまいましたよ。次作の『希望荘』も読むけれど。