mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

希望荘 宮部みゆき レビュー ネタバレあり

 

今作は杉村三郎主役の第四作目。一作目から三作目はこちら。

 

妻と離婚し、仕事を失い、娘とも離れて暮らすことになった杉村。何もかも失ったかのように見えるけれど、彼は自分自身を取り戻しているように見えた。

 

亡き北見氏の思いを継ぐかのように私立探偵事務所を開設し、近所の人々とも上手に関係を築いて行っている。そして、何より嬉しかったのが元『睡蓮』のマスターの水田氏が探偵事務所の近くで喫茶店をオープンしていたこと!

 

今作は4つの物語に分かれて描かれている。簡単に解説を書き留めておく。

 

聖域

近所に住んでいた三雲勝枝という老人が亡くなった。けれど、近所に住む盛田さんは彼女にそっくりな人を見かけたという。ただ似た人なのか?その真相を杉村が突き止めるというお話。

 

三雲さんの娘がカルト宗教?のような訳の分からない団体に傾倒していて、多額のお金をお布施として納めていたり、そのため三雲母子の関係がうまくいかなくなったり。

 

でも、三雲さんが宝くじに当たったことで母子の関係はうまくいくようになり、生活は一変。今までの全ての人間関係や環境を捨てて生まれ変わることにしたという結末。お金があると着るもの、食べるもの、身につけるもの、全てが変わるよね。

 

ただ、三雲さんの娘の心だけは変わらなかったのかな。幸せなら、かつての仲間への当て付けなんてしないよね?それだけが残念。

 

希望荘

亡くなった父武藤寛二氏が『かつて人を殺したことがある』と言っていた。そのことが気になるのでその真相を確かめて欲しいと遺族の相沢氏から依頼があった。

 

実際は寛二氏がボケていたわけでもなく、罪を犯した人に反省を促し自首して欲しかったからというもの。かつて身近にいた友人が殺人を犯し、自首に付き添った経験のある寛二氏には罪を犯した者は見ただけで分かる。

 

『希望荘』はかつて寛二氏が住んでいたアパートの名前。

 

砂男

杉村が離婚して田舎にしばらく帰っていた時の話。実家の家業である農家を手伝うことをやんわり断られ、縁あって地元のフリーペーパーの編集をしつつスーパーでアルバイトをすることになる。

 

そんな折、夫婦で経営している地元で人気の蕎麦屋『伊織』の主人が不倫の末駆け落ちした。その真相を追うというもの。

 

実際は不倫などしておらず、家族を守るための苦渋の選択だった。かつて父の病気の治療費に大金が必要だったため、ある男に戸籍を売ったことから続く悲劇。その悲劇を断ち切るために殺人を犯し、多分自らも死を選んだ。

 

この件をきっかけに杉村は地元を離れ、東京で私立探偵事務所を設立することを決めた。

 

二重身(ドッペルゲンガー

母と付き合っている男性が東日本大震災の前日に、『東北に買い付けに行く』という言葉を残して行方が分からなくなった。その人を探して欲しいという高校生、伊知明日菜からの依頼。

 

男性の名前は昭見豊(あきみゆたか)。AKIMIというアンティークショップを経営している。震災で被災してしまったのだろうか。誰もがそう思う中、実は震災を利用して自らの罪をうやむやにしようとしたアルバイト店員松永君の犯行だった。

 

昭見氏は実家も裕福で、これから結婚して幸せになろうとしていた。松永君は決して幸せとは言えない幼少期を経て今に至る。愛や富などとはかけ離れた人生だった。

 

親は選べない。子供を産んではいけないような人間が自身の親になってしまうこともある。これはもう運だ。どうしようもない親の元に生まれると、本当に本当に這い上がることは苦しいし努力では何ともならないことも多々あるのだ。

 

だからと言って人を殺していい理由にはならない。どこかで自分の気持ちに折り合いをつけ、小さなことにでも幸せを見つけていくしかない。

 

元妻と別れて杉村氏はどうしているのだろう?と思っていたけれど、自分の足でちゃんと立ち、娘とは頻繁に連絡もとっているし、人間関係も良好。生き生きしている杉村氏が見れて良かった。次作の『昨日がなければ明日もない』楽しみだ。