来なけりゃいいのに 乃南アサ レビュー ネタバレあり
『普通』であることが無意識に求められる日本。そんな一見普通に見える女性が主人公である乃南アサ先生の7つの短編集。
熱帯魚
今の職場に満足していない響子は憧れていたアパレルメーカーに転職する。華やかな世界。時代の最先端を行く世界。でも実際に入社してみると、社員に覇気は無く仕事中はただ無言でゆらゆらと水槽を泳ぐ熱帯魚みたい。任される仕事も誰でもできるようなことばかり。そんな現場を友人のみどりに見られて・・・
外から見る世界と中から見える世界は違う。人生は短いのだから、思っていたのとかけ離れた世界なら私なら辞めちゃうなぁ。響子をバカにするみどりの最後は気の毒だけれども。
自分の身を置く環境には知らず知らず染まっていくから、おかしな環境だと思ったら逃げてもいいんだよ。
最後のしずく
人間は外見ではない。けれど特に10代、20代の頃は自分の外見が過剰に気になる。それに度を超えてひどい外見だったら異性とのお付き合い、就職、結婚にと支障が出る。幸絵は友人に不細工だと心の底では思われており、勤務先の幼稚園で園児にさえも容姿をバカにされる。
最後は美容整形を決意したのかな。美容整形をして明るく前向きに生きられるのなら、私は整形をした方がいいと思う。整形は努力だ。
夢
私は彼と結ばれる運命にあると信じて疑わない千絵子。彼に振られても、最後に結ばれるのは自分だと思っている。
思い込むのは勝手だけれど、これ相手がいることだから他人に迷惑をかけちゃいけないよなぁ。と読み進めるうちにあれ?もしかしてやばいのは千絵子だけじゃなく美和も?あぁ美和は違った良かった。そしてまさかの最後!文也、お前もか。
人生は大抵自分の思い通りにはならない。そんな時にどうすればいいのか、どういう道を選択して進んでいくのか。と考えるチャンスなのに周りに当たり散らすのはもったいない。
ばら色マニュアル
会社に行くのが楽しい。仕事が楽しい。もっと仕事がしたい。と知らず知らずのうちに洗脳され、最後は役員の誰かのコピー人間にされるというお話。
まぁ人間生まれてから親に洗脳され、先生に洗脳され、学校に、会社に、社会に洗脳されているわけで。どこかで立ち止まって自分で考える力を身につけなきゃ人に利用され続けるよね。個人的には一番怖い話だった。
降りそうで降らなかった水曜日のこと
中学生のまゆは先生と付き合っている。その先生が死んだ。まぁ当然中学生に手を出す先生なんて、他の子にも手を出してるよねと思ったら案の定。自殺ってことで片付けられたけれど、手を出した沼田梓に突き落とされたのかな・・・?
中学生の頃はなあ、まあ、嵐みたいなものなんだ。p210
これが全てで、私自身も中学生の頃のことなんて何も覚えていないし、思い出すこともない。きっと悲しいこと、辛いこともたくさんあっただろうけれど嵐みたいなものだったと思う。
来なけりゃいいのに
多重人格のお話。多重人格ゆえに人生の大切な場面でつまづく。私は多重人格もののお話がどうも苦手だが、唯一納得した小説が百田尚樹先生の『プリズム』。これはオススメ。
春愁
勤続20年目の多恵子。結婚せずに仕事一筋頑張ってきた。最近の若い子たちにもっと真面目に仕事に取り組んでもらうためにはどうしたらいいのだろう?なんて考えている素敵な女性のはずが、張り切りすぎて空回りし、新人いびりをするただの扱いにくいお局様になってしまった話。
肩の力抜いて、楽に行こうよ。と声をかけてあげたい。最後、新人の頑張りを横取りしようとするけれど、自分のしたことは全部自分に返ってくるんだよ。多恵子はきっと勤続20年の記念品をもらえないのだろうなぁ。
イヤミスなお話ばかりだったけれど、なぜか読んじゃう。ばら色マニュアルと春愁が好き。