mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

岬にて 乃南アサ レビュー ネタバレあり

 

岬にて

杦子(すぎこ)には二人の娘がいるが、二人とも独立している。夫と二人暮らしだが、夫とは大した会話もない。

『ママって、パパとつきあう前にも、誰かつきあってた人って、いる?』

という娘からの質問から杦子はかつての恋人のことを思い出す。そんな折出張で訪れた先がかつての恋人の故郷であると気付き、杦子は彼の育った町を探索する。最後に目にしたのは彼によく似た人・・・

 

過去って美化されがちだけど杦子が分別のある人で良かった。今ある幸せに気付ける女性だし、これからも末長く幸せに生きてほしい。

 

今夜も笑ってる

夜に聞こえてくる神田さん(旧姓田代さん)の下品な笑い声。普段は優しい感じなのに気持ちが悪い。下品な笑い声が聞こえてくるのは神田さんが再婚してからだ。

 

女性の勘って当たるよね。母が神田さんのことを

『あの人には男の人を誘い込む、不思議な魔力みたいなものがあるんじゃないかしらね』(p74)

って言っていたのが印象的だ。

 

最後が恐ろしい。これって神田さんと父が浮気して、母が乗り込んで行ったんだよね。そして母が神田さんを殺した・・・?

 

ママは何でも知っている

家族は宗教。なんて言葉が真っ先に浮かんだ。家庭内での常識は一歩外を出ると非常識かもしれない。にしても、漆原家は私からしたら異常だけどね。

 

歯ブラシは家族と共用、母が娘の夫とお風呂に入るなんて想像しただけでゾッとする。それも『家族なんだから』という一言で片付ける。漆原家の慣習に馴染めなかった者の最後は・・・その場所に馴染めなかったらさっさと逃げるべし。

 

母の家出

結婚したら夫のため、子供のために生きて自分を犠牲にするのが美徳。だったのだろうね、昔の日本は。母親が綺麗にしていたら、

 

お母さんなのに着飾って

子供のお世話ちゃんとしてるの?

 

なんて言われるのは今も変わらないのかな。富士山が綺麗だからという理由で家出した母は責められないよ。自分の気持ちに素直になったのだから。

 

鈍色の春

自分の思いを言葉にせずに自分の命をかけた仕事にしたためる。美しいはずなのに、いや、美しいからこそその想いが伝わった時の怖さよ。

 

脱出

妻が自分の同僚と浮気をして、自分をどこかに監禁している。と思って読んでいたらまさかの展開に!妻と同僚に殺されて、まさかの二人の子供として生まれ変わったっていうこと!?

 

この先どういう復讐があるのだろう?と考えるとドキドキとゾワゾワが止まらない。

 

泥眼

乃南先生の伝統工芸の描き方が好きだ。

 

泥眼。女性の生霊の面で、女性の嫉妬心を表したもの。

 

なるほど。面を作る仕事。そんな仕事があるのか。

 

普段私の生活には全く関わることのない世界。だからこそ面白く興味深かった。自分の仕事にプライドを持つ。そのために自分の生活の一切を捨てる。私にはできないからこその美しさに魅了された。

 

春の香り

両親が亡くなり、故郷に帰ることも無くなった。祖父母と両親が眠るお墓を東京郊外の墓地に移そうか。そんな思いで故郷の高知県へと向かう。そこで20年ぶりに親友と偶然にも会うというお話。

 

大人になると喧嘩したわけでもないけれど、友人とは自然と疎遠になっていく。でも再会すると時間を超えて当時に想いが吸い寄せられ、自分自身も当時の頃の自分に戻る。

 

ああ、会えて良かったと、しみじみと思う。(p320)

 

これが全てだ。不安な気持ちを抱えつつ帰った故郷で、前向きな気持ちになれて良かった。春はもう近いね。

 

花盗人

年下の祐司と結婚して9年が経つ。仕事は長続きせず、家のことの一切をやらない祐司に愛想を尽かしつつも自分が支えてあげなきゃなんて思う公子。

 

読めば読むほど祐司はどうしようもない人だし、さっさと別れたらいいのでは?じゃないと取り返しのつかないことになるのに・・・

 

公子はストレス発散のためにパチンコにハマり、最後はそういうオチですか・・・祐司に帰ってきて欲しくないがために、線路に自転車を放置するというね。

後味が悪い。

 

微笑む女

斜里が舞台となっているので乃南先生のニサッタニサッタを思い出した。本当の幸福とは何かを問う作品。再読したくなった。

 

 

さて、妻子ある男性とお付き合いをしその男性との子供を身籠った女性とその妻。『世間的に』許されないのは前者だろう。ただこの妻なら不倫されても文句は言えないし、子供たちから遠ざけられるのは当然かな。

 

自分が常に正しいと思い込み、何よりも人から自分がどう見られているかを意識し、自分の家族を支配しようとする。この妻からはそんな感じが見てとれた。

 

もちろん妻子ある男性と関係を持ってしまった史絵も悪いのだろう。ただ『世間』を無視したときに本当に幸せなのはどちらだろうね。

 

はびこる思い出

美加子と聖吾は幸せな結婚生活を送っている。ある日、美加子が大切にしていたアルバムがカビにやられていたことに気付き聖吾は写真屋さんに復元をお願いしに行く。『花盗人』の祐司とは違って本当に良い人と結婚したよね美加子は。

 

なんて良いお話。かと思っていたらまさかの最後ね。美加子は実はかつて結婚していて子供がいた。その子供を自分の従兄弟として引き取るという・・・聖吾が知ったらどうなるのだろう?美加子は美容整形もして年齢も誤魔化しているんだよね・・・?

 

人を欺いてでもしたたかに生きるのが、今の世界をうまく渡っていく術なのかもしれない。

 

湯呑み茶碗

私は他の人とは違うの。

 

そう自分で思っているうちは三流。その傲慢さが自分の目を曇らせてしまうという話。あぁ自分にも思い当たる節があるなぁと恥ずかしくなった。

 

愛情弁当

おかあさんが亡くなり、『四季亭』を切り盛りしている義姉。兄は酒に溺れどうしようもない人だ。弟の和久はそんな中上京し、俳優養成学校に通っている。手を頻繁に洗っているところから極度の潔癖症かな?と思いきや、家は汚部屋。

 

義姉から毎日送られてくるお弁当には殺された兄の肉片が少しずつ入っていて・・・

ホラーすぎる!!!

 

悪魔の羽

フィリピン人のマイラは日本人の夫と子供2人の4人暮らし。宮崎県から次のの夫の赴任先の新潟へとお引越し。その引越し先の新潟県でのお話。

 

同じ日本でもその土地その土地で気候も風習も全然違う。単純に水が合わないってあるよね。マイラはたまたま新潟県の水が合わなかっただけ。でも、マイラの不調に気付いて新潟から転勤を申し出てくれる素敵な旦那様で良かった。

 

合う、合わない。これは自分ではどうしようもないこと。合わなければ逃げてもいいんだよ。これはマイラだけでなく誰にでも言えること。

 

なんだかゾッとするようなお話が多い短編集だったけれど、個人的には『微笑む女』が好きでした。短編集はちょっとした合間に読めるから好き。