mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

いっちみち 乃南アサ レビュー ネタバレあり

 

家族。

 

家族が皆仲良く、お互いに分かり合えるのが理想かもしれない。でも家族といえども一人一人性格も違えば考え方も違う。そんな家族間の人間関係を描いた短編集。

 

いっちみち

親の借金、兄の不貞によって夜逃げをした芳恵一家。当時芳恵は16歳。友達とも大好きだったナオくんとも離れて30年が経った。コロナウイルスという得体の知れないものが流行り出す前にかつて住んでいた故郷を訪れることを思い立つ。

 

家族に振り回され人生を滅茶苦茶にされてしまった芳恵だが、今は定職に就き穏やかに暮らしている。二度とその土地を踏むことはないと思っていた故郷を訪れる決意をさせたのは、コロナウイルスだった。

 

大変だっただろう。自分の知らないところで全てが変わってしまい、自分の力では変えられない運命を背負うことは。それでも、ナオくんと再会し明るい未来が見えた最後で良かった。みんな幸せになってほしい。

 

ルール

ルールがあるから人は上手く他人と付き合っていけるのかもしれない。ただ、くつろげるはずの家でもルールがたくさんあったら・・・と思うとゾッとする。

帰宅したらすぐに靴下を脱ぎお風呂に入る。潔癖な人はいいけれど、そうでない人はどうなのかな?行き過ぎたルールによって思いやりを忘れてしまい最悪の結末を迎える。ゾワゾワした。

 

青い手

表題を見たときは怖さを感じたが、代々続くお線香作りの家系の話。お線香を作る過程で手が青い色に染まってしまうのだ。なんとなく雰囲気が乃南先生の『氷雨心中』に似ている。

 

おじいちゃんが拓也に耳掃除の話をするシーンを疑問に思っていたけれど、最後に納得。とても高価な薫霊香には男性の性的な香りが必要。そのために人が殺されていたんだね・・・美しい伝統工芸のお話だと思っていたのに真実を知った時の怖さ。この怖さが好きだ。

 

4℃の恋

表題を見て、毎年クリスマスに話題になるあの4℃かと思ってしまった。色々怖いけれど、何が一番怖いって晶世の存在だ。元カレの子がお腹にいるのに、元カレと同じ血液型の新しい彼と結婚を企んでいるって・・・しかも元カレを利用した上で。晶世、絶対近い将来不幸になるよ。

 

夕がすみ

なんとなくかすみちゃんってこの世のものではないような気がしていたけれど、不思議な力を持っていたのか・・・。子供って大人が何を考えているか、自分のことをどう思っているかを敏感に感じ取るよね。

 

青い夜の底で

絶対ストーカーだよね。って思って読んでいたら案の定。好きな人、憧れの人がいることで頑張れるのならいいけれどこれはもう病気・・・だよね?だけど個人的にこういう話は大好き。最後絶望へと向かっていく未来が見えるのがもうね。

 

他人の背広

背広を間違っただけなのに・・・でも署では誤解は解けるよ・・・ね?ね?という終わり方。いろんな想像ができるのがまた怖さを増長させる。

 

団欒

少しずつすれ違いが起こっていた家族があることで絆を取り戻し深めていく。こう書くと美しい家族再生の物語のようだが、その原因が殺人とは。死体をどう処理するかを話し合い、普段と同じように過ごすことを決め、いつしか家族は同じ時間と秘密を共有していく。

 

警察に通報しようよ!と言い出す人が誰一人いないところも闇深いよね。最後また殺人を企むところも含めて最高だった。

 

どれも面白かったなと思うが、個人的には『青い夜の底で』が狂気じみていて好きな作品。