掲載禁止 長江俊和 レビュー ネタバレあり
以前長江先生の『出版禁止』を読み、フィクションなのかノンフィクションなのか分からなくなるほど混乱した。
あのゾワゾワ感を思い出したくなり、禁止シリーズに再び手を出した。今作は5作の作品集。
原罪SHOW
人の死を見ることができるツアーがあるらしい?そんな噂を聞きつけ、Y局のディレクターはそのツアーに参加した。実際に人が焼き殺される瞬間を目の当たりにしたが、これは演出ではないだろうか?とその真相に迫るため、ツアー主催者に連絡を取る・・・
これ、騙されなかった人なんているのかな?主催者に連絡をとって取材を申し込んだのはY局のディレクターだとばかり思っていたけれど、実際はG局のディレクターだったんだね。
最後のどんでん返しがすごいし、実際にこういう闇ツアーが存在するのでは?とゾワゾワ。
マンションサイコ
交際していた鈴木亨(とおる)に別れを告げられた秋庭祥子。別れてからも忘れられず、最初は遠くから見るだけだったのにその行動は次第にエスカレートしていく。
それにしても合鍵で亨の家に勝手に出入りするのは怖すぎる。更に、亨が帰宅後は天井裏に身を潜め彼の様子をそっと伺っている・・・なんか夜中に天井から物音なんてしたらうちの家は大丈夫かな?って思ってしまいそう。
亨はそのうちに結婚し、妻との間に子供をもうける。そして混乱してしまうが、久住初音と大貫信彦夫妻、その間に生まれた遥人の話が同時に描かれる。
①亨は妻と妻の愛人によって殺害されるのを祥子は天井裏から見ている。
②その後しばらく祥子は自宅での生活に戻るが、また亨がいたマンションの天井裏で生活を始める。
③亨がかつて住んでいた部屋に新しく越してきたのが久住初音と大貫信彦夫妻。二人の子供の名前は遥人。
④祥子は遥人を誘拐し逃走。祥子の年齢は60歳。天井裏に住んで30年が経過していたのだ。
ざっと書くとこんな感じ。まさか祥子が30年も天井裏で住んでいたとは思っていなかったから最後はびっくりした。見た目も悪くないし、親からの遺産もあるのだからもっと良い生活を送れたはずなのに・・・
杜の囚人
登場人物は、兄の孝雄と妹の美知瑠。二人の生活を妹の美知瑠がビデオに撮影しているところから物語は始まる。
美知瑠は『孝雄は新興宗教の教祖越智修平』だと思っている。
孝雄はたくさんの信者を殺した殺人者であり、殺人の記憶を失くしている。
美知瑠の目的は、孝雄自身に自分が越智修平であることを思い出させること。
美知瑠側から見た現実を信じて読んでいたら、まさかのどんでん返し。
美知瑠を演じているのは男。
孝雄は『美知瑠を演じている男=越智修平』だと思っている。
本物の美知瑠は越智修平の熱狂的な信者であり、妻であった。
越智修平は美知瑠を殺害している。
孝雄は美知瑠を演じている男を包丁で刺す。
美知瑠を演じている男は自らを越智修平だと認める。
孝雄はその後自殺。
これで話は終わりだと思っていたらまさかのオチにびっくり。
美知瑠を演じていた男は越智修平の盲目的な信者であり、越智修平ではない。自信を越智修平だと思い込んでいただけ。殺人者越智修平は死んだことになり、全ては被疑者死亡で裁判を終わらせるための工作だった・・・。
何度もハッとさせられるお話。誰が本当のことを言っているのかを探るのが楽しかった。
斯くして、完全犯罪は遂行された
この話は混乱せずにスッと読めた。収録作の中で一番分かりやすい。
私は大学時代に希和子と交際していた。
友人であった画家の卵である倉田ワタルに希和子を奪われる。
ワタルと希和子は結婚するが、15年経った今も私は希和子を忘れられない。
ワタルは画家としては成功しないが宗教まがいの集団生活をし、複数の女性を侍らせている。
ワタルと離婚した希和子と再会し、私と希和子は同棲を始める。
これが私が見ている現実だが、実際には希和子はワタルと続いていて私を抹殺するために希和子は私と同棲を始めた。そう仕向けたのはワタル。ワタルが黒幕かと思いきや、黒幕の黒幕はワタルが近頃侍らせている紫音という女性。
支配している側だと思っている人が実は支配されていたというオチ。生きていると親に支配され、教師に支配され、学校に支配され、会社に支配され、社会に支配されているのかもしれない。
掲載禁止
黒幕の黒幕は誰なのか。そう想像しながら読むのが楽しい作品だった。が、やっぱり黒幕の黒幕は外れてしまった。結論から言うと黒幕は丘直子。
丘直子が『品格を守る会』のタナカを取材する場面から話は始まる。が、タナカは品格を守る会の代表を演じているだけ。実際は倒産詐欺の常習犯。黒幕はオフィスにいた老人だと思わされたが、彼も役を演じていただけ。実際の『品格を守る会』の代表は取材者の丘直子。
自分がこうだ!と思いながら読んでいた現実が実は違っていて、修正するもそれも違っていて・・・と著者に惑わされるのがやはり面白かった。現実世界でも自分の信じている世界は実は違っているのかもしれませんね。