mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

クレオパトラの黒い溜息 小峰元 レビュー ネタバレあり

 

亡き父が小峰元先生の大ファンで、自宅には小峰先生の本がたくさんあった。クレオパトラの黒い溜息、ピタゴラス豆畑に死す、アルキメデスは手を汚さない。どれも小学生の頃に読んだがイマイチ内容が理解できずにいたが、約30年の時を経て読んでやっと理解できた。

 

江戸川乱歩賞受賞作、『アルキメデスは手を汚さない』以外は絶版となっているが今は電子書籍で読めるらしい。良い時代になった。

 

 

本書を開いてまずびっくりするのが横書きということ。なんでも日本初の横書きの小説だそうだ。英語の小説みたい!私は個人的には横書きは読みやすくて好きだが、横書きの小説が定着しなかったのはなぜだろうか。

 

さて、主人公の公祐(きみすけ)は母子家庭だが、母とは別々に暮らしている。なんでも母は息子に最高の教育を受けさせるためマンションを借りてレベルの高い高校に通わせているのだ。目指すは東大理三。

 

品行方正、成績優秀な公祐。勉強に明け暮れる日々だったが、母が何者かによって殺される。そして友人の伊坂とその犯人を追うというお話。その中で関わった人が自殺や事故に見せかけてバタバタと殺されていくんだけど、その真相が読めない。捜査は進展したかに見えて振り出しに戻る。

 

殺人の真相は、地位や名誉、お金を得た人が更に望むもの。そう『若さ』。そして医療に魅せられすぎた医者の欲望によって引き起こされたもの。優秀な公祐もある意味医者の“作品”だったということまで明らかになって、人間の欲望の怖さを感じた。

 

本書は1984年に発行されているので約40年が経つ。医療は発達し、アンチエイチングに効くと謳われている化粧品やサプリメントなんかもあるけれど、本当に若返っているかは不明だ。

 

本書を読んだ頃の父は、今の私の年齢より若かっただろう。どんな感想を持つだろう。なんて考えながら読むのがとても楽しかった。本はすごいよ。時間を超えて父と会話している気分になった。