mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

5年目の魔女 乃南アサ レビュー ネタバレあり

 

女性の勘は当たると思う。なんとなくこの人やばいな、なんとなくこの場所居心地悪いな・・・

このうまく言えない“なんとなく”は人間の本能だから無視すると大変なことになる。

 

主人公の景子はOLをしていたが、そこで仲の良かった同僚の貴世美(きよみ)と上司新田との不倫関係に巻き込まれ退職を余儀なくされる。あれから5年、景子は転職しインテリアデザイナーとして頑張っている。

 

それなのに景子は今でも5年前のいざこざに心を惑わされている。直感で告げる、貴世美はやばい奴だと。にもかかわらず貴世美のことをひたすら考え、彼女の実家や転居先を探る日々。なぜそこまで貴世美に執着するのだろう?彼女に人生を狂わされたことは大変だったが、景子は今自身の努力で新しい職を見つけたのだしもう過去はいいじゃない?なんて思っていたがまさかの最後のオチ。

 

人を殺していたらそりゃ誰かにつけられている、誰かに見張られているという気持ちにもなるよね・・・ただただ貴世美の母親が気の毒。

 

そしてかつて見下し軽蔑していた貴世美がまさか大会社の社長夫人になっていて、優雅な生活を送っている貴世美を目の当たりにした景子の心情が驚くほど精巧に描かれていた。

 

自分が設計した家に、貴世美が住む。住む人の幸福を願って造る家に、あの貴世美が住む。何だかしっくりとこない感覚が、景子の中で渦巻いた。(p239,p240)

 

人と比べない。自分は自分の幸せを。なんて言われても、誰だってみんな比べちゃうもの。かつての同級生、同僚が自分よりも良い生活を送っていたら羨ましいし、自分の方が幸せそうならホッとする。どんなに良い言葉を並べても人間の本質は変わらない。

 

女性の微妙な心理描写が秀逸で面白かった。はて、景子はこの先何を信じて生きていくだろう。