mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人 東野圭吾 レビュー ネタバレあり

人は一度手にしたものを失うことを怖がる。お金、地位や名誉、高価な物。失ってもまた一から積み上げていけばいいと思えるほど人ってきっと強くないのでしょうね。そこまで達観できるのならそれはとても幸せなこと。

名もない小さな寂れた町で町おこしの計画が持ち上がる。この土地出身の漫画家の描いた漫画が爆発的にヒットし、その漫画の世界をこの土地で再現するという。出資者を募り建設も進んでいた頃にコロナウイルスの影響を受け、計画は途中で中止になる。せっかくの希望の光が閉ざされた形だ。

コロナの影響で私たちの生活様式は随分と変わった。マスクをすることは今や常識、海外なんてもってのほか国内旅行にも行かない、県を跨ぐ移動はしない、外食を避けるなど。これができたとしても、誰も生活を助けてくれない。休業要請が出ても、お客様が減っても営業しないと自分が生きていくために働かなくてはいけない。今作では寂れた町で皆が必死に生きていて、希望の光に何としてでも縋りつきたいその気持ちが痛いほど分かる。

自分の会社、地位や名誉を守るためなら、かつてバカにして見下していた同級生に頭を下げる。自分を輝かせるため、社内のポジションを有利なものにするためなら、存在すら無視していた同級生と友達面をし利用する。自分の漫画家の地位を守るためならお世話になった人に危害を加える。褒められたことではないが、皆今のこの状況を生き抜くために必死なのだ。

多くの生徒に慕われていた英一を殺した犯人はめちゃくちゃ意外!で全然見抜けなかった。意外と健太かも?と思いながらずっと読んでた。叔父さんの推理や話の誘導の仕方はお見事。そして、健太と真世の今後はどうなるのだろう?真世に嫌がらせのようなメールを送っていた健太の元恋人(?)も幸せになれるといいですね。人が幸せになるのが許せなくて足を引っ張る人って見ているだけで痛々しくて気の毒なので。こういうご時世なので心の貧しい人が露呈されてしまったのでしょうか。

もし今作が実写化されるのなら、漫画家の釘宮君は星野源さん。英一は小日向文世さんがいいなぁ。本を読んだ後にキャストを考えるのが楽しい。同じ方いらっしゃるでしょうか?