mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

作家小説 有栖川有栖 レビュー ネタバレあり

 

『作家』という職業に就いている人に関する8つの短編集。

 

書く機械(ライティング・マシン)

売れっ子と呼ばれ、ベストセラーを連発するような作家はいかにして作られるのか。

 

敏腕編集者の藤原はパッとしない新人作家、益子紳二をベストセラー作家に仕立て上げる。その秘密は会社の地下室にあった。

 

作家に憧れる人が多いと聞く。だが、売れて、売れ続ける人は一握り。だから死に物狂いで、退路を断って書くしかないのだろう。人間死ぬ気でやれば何でもできるということだろうか。

 

殺しにくるもの

孤高のカルト作家、上杉皇一のファンである女子高校生の富沢愛。彼女の書くファンレターと日記とが交互に描かれ物語は進む。

 

時を同じくして、謎の連続殺人事件が起こる。被害者の性別も年齢も住んでいる場所もバラバラ。だが、知的水準は一般よりもやや高い。犯人は・・・?

 

辻原君の頭にあった傷は〈文鎮のようなもので殴られた痕〉だという。(p76)

 

というところから犯人は上杉皇一?問題作と言われる『虚の公園』を批判した人たちを狙って殺したということだろうか。

 

締切二日前

締切直前の作家の苦悩のお話。やらなきゃいけないのは分かっているけれど、アイデアが浮かんでこない。そしてなぜか他のことに手をつけてしまう。

 

テスト前に勉強しなきゃいけないのに、部屋の掃除をしてしまう学生時代を思い出した。人間追い詰められると現実逃避したくなるよね。

 

鬼骨先生

作家、富田鬼骨(とみたきこつ)の元にインタビューに向かう高校生二人。実家が本屋さんである吉沢梨奈と、父親が編集者である島貫直哉。作家志望である島貫に鬼骨先生はなぜか辛くあたる。その理由は・・・

 

作家と編集者との関係、出版社と本屋さんとの関係など出版業界の闇とも言える現実が描かれているのが痛快。高校生二人の淡い関係もいいですね。

 

出版業界の闇のお話なら百田尚樹先生の『夢を売る男』も最高の面白かったのでぜひ!

 

 

サイン会の憂鬱

デビューして一年目の作家、勅使河原秀樹(てしがわらひでき)は編集者の鶴岡にサイン会をするようお願いされる。作家はただ物語を創って書くだけでいいと思っていたのに・・・

 

サイン会のことを考えすぎたが故に見た悪夢だと思っていたのに、まさかの終わり方!

 

作家漫才

作家だけでは食べていけないので芸人もしている芥川正助(あくたがわしょうすけ)と直木正太(なおきしょうた)二人が舞台に立ち漫才をしている形式で物語は進む。

 

なぜかお笑い芸人の和牛で再生された(笑)

 

書かないでくれます?

作家はいつでも面白いネタを探している。友達の、そのまた友達の、またはタクシーの運転手さんから聞いたお話も小説のネタになるかもしれない。

 

そんな作家病が招いた最後の結末。赤木慶也は失踪した和久井ジョージさんと同じ運命を辿るんだよね・・・あの運転手によって。

 

夢物語

医療ミスで生死を彷徨う小説家のフミオ。彼は夢を見続けている。

 

夢の中でフミオは物語を考え、伝える者として重宝されている。だが、その物語は自分が創ったものではなく現実世界で他の誰かが創った物語だった。

 

作家が持ち得る『盗作』の願望とその葛藤が面白かった。そしてこれも最後!!!

 

 

どの短編も面白かったが、個人的には『殺しにくるもの』と『サイン会の憂鬱』が好き。最後にゾワッとするホラー、面白いですよね。