再生の朝 乃南アサ レビュー ネタバレあり
人は皆それぞれ何かしら事情がある。幸せそうに見えても本当のところは誰にも分からない。
恋人に別れを告げられた人、今までの自分の殻を破りたい人、夢破れた人、結婚生活が破綻した人、会社が倒産の危機にある人・・・そんなそれぞれの事情を抱えた人が同じ夜行高速バスに乗り合わせるというお話。
本来なら何事もなくバスの中を眠って過ごし、朝起きたら目的地に到着している。同乗した乗客のことなど覚えてもいないだろう。そんな中でバスジャックが起こる。
今ならスマホで外に連絡取ればいいんじゃない?で話は終わってしまうんだけど、当時はスマホなんて無かった時代。バスについている電話線も切られ、外と連絡を取る手段が無い。バスジャックの犯人は逃走し、運転手は死に、乗客だけが残される。この窮地をどう乗り越えていくか。
住んでいる場所、年齢、性別、肩書きなんて窮地の際には全く関係なくて大切なのは人間性。何もかもうまくいっている時は、誰しも他人に対して思いやりを持てるし優しい気持ちになれる。だからこそ困った時、苦しい時に人間の本質が出る。
それぞれの登場人物を見ていて、時が経つにつれて感情が変化していく様がとても面白く引き込まれた。私が一番共感したのはあづみ。きっとそれなりの人生をなんとなく歩んできた女の子が、自らの意思で動き慎を助けに行き、同乗者を家族となぞらえるシーンがとても微笑ましかった。
それぞれの人が窮地を脱し、これからも生きていく。今の世の中、辛いことや悲しいことも多いけれどこの窮地を抜けると私たちも再生できるのだろうか。そんな希望を持ちつつ読んだ。