mooncatの図書館

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殺人鬼フジコの衝動 真梨幸子 レビュー ネタバレあり

 

言葉の力は思っているよりもすごい。

 

何気なく言った言葉が人の人生を大きく左右する。良くも悪くも。かわいいね、美人だねと言われ続けた人は本当に美人になるし、ブスだの馬鹿だの言われ続けた人は本当にブスになる。

 

さて、この作品は殺人を犯し続けたフジコが主人公であるが彼女の生い立ちは相当なものである。親からは日常的に暴力を受け、給食費は払ってもらえない、学校で必要になるリコーダーや体操服は妹と共用の1つしか買ってもらえない。ご飯は作ってもらえず、両親の喧嘩は日常茶飯事。子供に使うお金はないのに、化粧品やらパチンコやらに使うお金はある。典型的な毒親育ち。だからと言って殺人を犯していいわけではないが、殺人に至る過程としては十分すぎるだろう。

 

この作品内で一番恐ろしいのは叔母の茂子だ。両親と妹を亡くしたフジコを引き取り、彼女に苦労させまいと振る舞う姿勢は善人そのものであるが彼女の時折フジコにかける言葉が恐怖だった。

 

お母さんそっくりね。
お母さんみたいになるよ!
カルマよ。

 

中学生までは普通だったが、高校生からは悪い仲間と付き合うようになり、男に失敗し、結婚に失敗し、子供を虐待し、整形中毒に陥ったフジコの母親。そんな母親と同じような人生を歩むように言葉で誘導する叔母茂子。残念なことにフジコは母親と同じような人生を歩むことになるのだ。お母さんのようにはならない!と心の中で誓いながらも。

 

子供は親を選べない。親ガチャなんて言葉は誰が考えたか分からないが、よくできた言葉だと思う。お金持ちの家庭、貧乏な家庭、愛情に満ちた家庭、愛のない家庭。子供にはどうすることもできないことであり、子供の頃の思い出は大人になっても人生に影を落とすことも少なくない。しかしながら家庭や親に恵まれなかったとしても、大人になれば自分の努力や周りの人たちに助けによって人生はどうにでもなる。

 

残念なことにフジコの人生にはほとんど光が差すことがなく、茂子の思うがままに振り回されてしまう。作品の冒頭にある『蝋人形、おがくず人形』の表題の謎が解けた。そしてフジコの娘、早季子と美也子も。形は違えど悲しい結末だった。

 

現実ではどんなに苦しいことがあっても必ず先に光があると信じているし、信じたい。そうやって人間は生きていくしかないのだが、真梨幸子先生の作品って光がないよね。光の当たらない人生を見てみたい!っていう怖いもの見たさが刺激されてどんどんハマっていく。あぁやっぱり私はイヤミスが好きだ。