mooncatの図書館

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いちばん長い夜に 乃南アサ レビュー ネタバレあり

まえ持ちって何かと思ったら前科持ちのことなんですね。

毎日ネットでは殺人があった、窃盗があった、事故があったと悲しいニュースが多い。外野は待ってましたとばかりに犯人探しをし、住所や名前を特定し、ネットに垂れ流す。この事件は犯人の身勝手な犯行だよね、でも被害者にも落ち度があるよねなどと好き勝手言うけれど、次の日にはまた新しい事件が発生し興味はそちらに移る。犯罪者が刑期を終え、その後どう生活しているかなんてほとんどの人が考えないだろう。犯罪者や被害者、その家族以外は。

この作品は犯罪者が刑期を終え、その後どのようにして生活をしているかに焦点を当てている。芭子と綾香、二人の女性が主人公だ。芭子はホストに狂い昏酔強盗罪で逮捕され、綾香は夫を殺害。どちらももちろん許されることではない。しかしながら芭子と綾香にも犯罪に手を染めるまでの背景、理由があるし、刑期を終え出所した後に普通に暮らし小さな幸せを求めるのは悪いことなのだろうか。

刑期を終えたからといって自分のしたことが全部なくなるわけでもないし、誰かに前科持ちと知られたらどうしよう。周りが怖いと思いつつも、でも生きていかなくてはいけない。そして自分が幸せになっていいのか?という恐れ。その辺りがとても上手に表現されているのは、さすが乃南先生だ。

芭子が弁護士の南くんに全てを打ち明けるシーンは胸が詰まったし、お願いだから幸せになることを諦めないでほしいと涙ながらに読んだ。例え受け入れてもらえなかったとしても、自分の過去を話せるところまで来た。それがなんだか嬉しかった。

芭子が仙台で被災したお話が、実は乃南先生がした体験だというあとがきにはびっくりした。何となくこの作品では大きなことは起こらず、平凡に淡々と日々の小さな幸せに目を向けていくのだろうなと思っていたから。

生きていくのは大変だ。生きているだけでお金はかかるし、不安になることもあるし、嫌なこともある。でも生きている限りは生きていかなきゃいけない。その中で幸せになる権利は誰しも平等にある。それは他人に侵害されていいものではない。犯罪者も同様だ。