mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

すずの爪あと 乃南アサ レビュー ネタバレあり

基本的に短編小説はあまり好きではなかったが、1冊でいくつものお話が読めるのは実はお得なのではないだろうか。すずの爪あとは暗い話が多く私は個人的に好きだ。

 

すずの爪あと
石川県珠洲市が舞台。なんと猫のふくちゃん目線の物語だ。珠洲市原子力発電所建設の推進派と反対派で町の人々が対立してしまう。そしてその対立は世代を超えても続く。そんな舞台でも猫のふくちゃんは多絵ちゃんに拾われ幸せに生きていくはずが、震災によりみんなバラバラになり・・・。
ダメだ。動物ものは本当に泣いてしまう。心が温かくなった。

 

こころとかして
須藤広樹は歯科技工士として働きながらジュエリーデザイナーとして働きたいと思っている28歳。ジュエリー工房でアルバイトをしている。恋愛も仕事もうまくいかない時はうまくいかないし、理不尽なことも多々ある。萌美のことは違う形で見返して欲しかったし、最後の記述からは涼子も・・・って、そもそも金を窃盗しているところに罪悪感がないのがなんともね。

 

寝言
こんなに短いお話なのにこんなにゾッとさせられるなんて。これ、夫の一人芝居だよね?って読んだんだけど違うのかな。周りに気付かれないようにただ寝言で妻を追い込む姿が狂人じみていてゾッとした。

 

僕のトンちゃん
この話が収録されている小説の中で一番好き。本当にゾッとした。誰しも人は子供の心を持っているし、大人になれきれない時もあるし、子供返りする日もある。けどさ、ここまでくると病気だよね。もう谷野の家での話し方一つ一つがゾワゾワしたし、妻への執着が怖い。この後味の悪さが好きだ。

 

指定席
おぉ!そういうオチ!なんの特徴も無い、印象に残らない主人公津村弘。他人のことになどまるで興味のないようなふりをしつつも、他人への関心が強く、自分を気にかけてほしい!という承認欲求も強い。そして思い込みも激しい。身近にいたら絶対関わっちゃいけないタイプだね。最後のオチがすごいー!前の喫茶店の件もこの人だったのか!

 

出前家族
血縁関係なんて煩わしいだけだよね。なんてことを思わせる作品。親でも兄弟でも親戚でも折り合いが悪い人は必ずいる。無理に合わせたり仲良くする必要なんてない。血縁関係がなくても、心が通っている人だけを大切にしたらいいよ。そんなメッセージを感じた。そう、家族だから、兄弟だから、親戚だから。だから何?他人だよね。

 

向日葵
体臭を気にしている女性と、嗅覚と味覚のない男性のお話。お互いが惹かれあったその先にある状態が怖くて震えた。お互いに無いものを補い合っていく関係は素晴らしいが、これは・・・私の理解の超えることろだった。

 

氷雨心中
あれ?これどこかで読んだことある。って終盤で気づいた。多分乃南先生の他の短編小説集で読んでる。日本酒作りの描写がとても詳しく書かれていて、その過程がとても美しく本当に音まで聞こえてきそう。職人さんたちもいい味を出していてうっとりと世界観に浸ったところでこの結末!ブラックすぎてゾワゾワした。

 

秋旱
昔好きだった人ってどうしてこう美化されるんだろう?偶然にも再開できたことにも運命を感じるからかな。この作品、誰一人として好きになれなくて感情移入できなかった。名取は何かやってるんだろうなぁと思いながら読んでたから、やっぱり!という結末。

 

Eメール
夫の昔の恋人とメールのやりとりをする女性。これ絶対イヤミス!すごいことが起こる!って興奮気味に読んでたけど、最後はほっこりとした終わり方。こんなことってまず無いだろうけれど、あったらいいな、素敵だなというのが感想。でもここまで出来た奥様なんているだろうか?

 

水虎
圭介にイライラしたのはもちろんだけど、靖孝の自分のことを後回しにする性格にイライラした。圭介みたいなタイプはよっぽど痛い目に遭わないと自分の生き方や考え方を変えないし、付き合えば消耗するだけ。そしてあんな目に遭ったのに作家に転身しようとする圭介にはアッパレ。あの時水虎様に連れて行ってもらった方が良かったのでは?

以上の12作品。ブラックでゾワゾワするお話が多く、とても楽しめた。