mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

夢を売る男 百田尚樹 レビュー ネタバレあり

 

今作は小説家になりたい、本を出版したいと考えている全ての人に必ず読んで欲しい。

 

自分が書いた本を出版したい。

 

読書好きな方なら一度は考えたことがあるのではないだろうか。私自身読書が大好きだし、これだけ本を読んでいるのだから自分にも書けるだろうと思い書いたことがある。しかしながらそれはもうひどい駄作だった。まず書き切るのが大変だし、読み返してみると全てが稚拙で途方に暮れた。やはり売れている本を書いている人はすごいのだ。

 

今作は、自分が書いた本を出版したいと考えている人に夢を売る男のお話。あなた才能ありますよ、うちの出版社から本を出しませんか?ただし、お金を払って。お金を払って本を出すなんて自費出版でしょ?いやいや、うちの出版社からもお金を出させていただきますのでその一部をご負担いただけませんか?今は本が売れない時代なので、新人賞などの賞を取っていない人の本を出版するのは特例中の特例なんです。なんて尤もらしい文言を並べて才能も無い本を出したい人を相手に商売をする。これが夢を売る男。

 

今作でカモとなる人々は、何者かになりたい。自分は他の人とは違う。と信じて疑わない人々。やたらとプライドが高く、人から賞賛されたいと強く願っている。でもさ、誰しも人に認められたいっていう承認欲求ってあるよね。そこをうまくついてくる。現に私がこうやって読んだ本のレビューをブログ形式で書くのだって、誰かが読んでくれたら嬉しいなと思って書いているわけ。別に誰かに読んでほしいと思っていないなら自分のノートに書いて公開なんてしなければいい。

 

今作を読んでふと思い出したことがある。数年前友人がとある女性向けのファッション雑誌に載ると報告してくれた。すごいね!おめでとう!と言ったが蓋を開けてみると彼女が数十万円のお金を払い、広告を出しただけのことだった。ある日雑誌の編集者から友人の元に電話がかかってきたらしい。とても素晴らしい事業をされているので、ぜひうちの雑誌に掲載したいのですがいかがですか?と。彼女は自宅で小さなネイルサロンをしていたのだ。

 

たかだか運転免許証の写真サイズのサロンの写真を載せるのに数十万円・・・しかも掲載されていたのは彼女だけではなく、100人近くの女性が小さな写真を載せていた。うわー雑誌なんて二度と買わない。詐欺じゃん!って思ったけれど、友人含めお金を払って雑誌に小さな写真を掲載された人々は騙されたなんて思ってもいないだろう。私は選ばれた人、雑誌に載った人。という思いができただけ良いのかもしれない。数十万円で夢を買ったんだよね。

 

今作は軽快でコミカルな感じで読みやすくはあるが、出版社の闇に鋭く切り込んでいる。本を出版したい人だけでなく、本が好きな全ての人にぜひ読んで欲しい。