あつあつを召し上がれ 小川糸 レビュー ネタバレあり
死ぬ前に食べたいものはなんだろう?お寿司?焼肉?いや、やっぱりお味噌汁にご飯、卵焼きかな。そんなことを考えながら読んだ短編集7編。テーマは食。
バーバのかき氷
歳をとると子供返りするなんていうけれど、作中のおばあちゃんがまさにそれ。ご飯を食べさせてもらっても、もう食べることも出来ない。そんなおばあちゃんが最後に食べたいと望んだものが家族みんなで食べた天然氷を使ったかき氷。孫のマユはその望みを叶えるためかき氷を買いに行く。
死を直前にし、かき氷を口にできたおばあちゃん。昔食べたかき氷が美味しかったこと、楽しく家族みんなで食べたことを思い出しただろう。切ないけれどホッと心温まる。
親父のぶたばら飯
パートナーを決める時は、一緒に食事をしろって。(p43)一番印象に残った言葉。食事は毎日のこと。食の好みが合わない相手との結婚はきっと辛いだろう。結婚相手を決めるときに重要なポイントだよね。ぶたばら飯が食べたくなる。
さよなら松茸
別れた恋人が最後の約束を果たすために二人旅行に出かける。もう会えなくなるけれど最後に最高に美味しい松茸料理を二人で食べる。二人の間に色々あっただろうが、数年後には松茸の美味しい思い出を思い出せるといいな。
こーちゃんのお味噌汁
病に冒された母親が子供にお味噌汁の作り方を教える。子供がこの先困らないように・・・という思いと、父親に食べさせてあげてほしいという女性ならではの気持ちに泣けた。
いとしのハートコロリット
記念日に昔なじみのパーラーへと食事に出かける老夫婦。出会った時のこと、昔一緒に食べたカレーにハートコロリット。仲睦まじい夫婦が回想しつつも食事を楽しんでいるようだが、なんだか不穏な空気。
どういうこと?と思っていると、旦那様はすでに亡くなっていて奥様は認知症とのこと。いろいろなことを忘れてしまっていたも、大好きな夫とのことはしっかり覚えている。なんだか切ないお話。
ポルクの晩餐
同性の愛人を豚になぞらえたお話。ちょっと風変わりな感じもしたが、“僕の可愛い子豚ちゃん”という愛しい気持ちを込めてのことなのだろう。最初少し混乱した。ラデュレのマカロンを全種類食べてシャンパン飲んで、パーッと華やかに死ぬ。不思議と幸せな気がした。
季節はずれのきりたんぽ
きりたんぽが大好きだった父が亡くなり、季節はずれのきりたんぽを作って鍋を囲む母と娘。父のことを思い出しながら、鍋を囲むがお醤油とお茶を間違って入れてしまいきりたんぽ鍋は失敗に終わる。それもまたなんだか風情がある。失敗して美味しくなかったきりたんぽ鍋も良い思い出の味にできた母と娘がずっと幸せでありますように。
読み終わって、どの作品もほろ苦いような切ないようなお話だったが、美味しそうな食べ物の描写が忘れられない。私は季節はずれのきりたんぽが一番好きだ。