mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

名もなき毒 宮部みゆき レビュー ネタバレあり

 

自分が不幸だと感じる時、自分以外の人は皆幸せそうに見える。

 

どうしていつも自分だけがこんな目に合うのだろう?と。だからクリスマスやお正月に自殺者が増えるのだという。

 

人類皆平等ではない。生まれながらにして裕福で親の愛情をたくさんもらって育つ人もいれば、貧乏で虐待されて育つ人もいる。これはもう運としか言いようがない。

 

誰でも良かった。と言って人を傷つけたり、殺したりする人がいる。こういう人は誰かに、何かに対して怒っている。どうして自分だけこんなに不幸なんだろう?お金に困るのだろう?人と上手に付き合えないのだろう?環境に恵まれないのだろう?どうしてどうして・・・そしてその矛先は幸せそうな自分以外の誰かに向いてしまう。

 

今作ではその象徴として原田いずみが登場する。いずみは側から見ると家庭環境には恵まれているが、子供の頃から様々な問題行動を起こし、ついには逮捕されるまでになる。しかしながら話を聞いてくれる取調官がいてとても上機嫌らしい。犯罪者は何かに怒り、そして孤独で寂しいのだろう。

 

今幸せじゃないのは、努力が足りなかったからじゃない?生まれ育った環境のせいになんてせずに、自分で道を切り開かなくちゃ!なんて軽々しく言う人はとても恵まれた人だ。親に大切にされ、周りの人に大切にされ、それなりの人生を歩めてきた人。

 

ただ、原田いずみの両親は至極真っ当な人間で家庭環境も至って普通。そんな普通の両親から生まれたいずみはどうしてここまで毒を孕んでしまったのだろう。何がそうさせたのだろう。今作を読み終えた今でも答えは出ない。

 

名もなき毒は大なり小なり誰しもの中に存在するのだろう。それが表に出るか出ないか。いや、出すか出さないか。他人を傷つけて一番傷つくのは自分。いずみは今までにたくさんの人を傷つけて、そして傷ついてきたのだろう。だからと言って許されることでは無いが・・・

 

誰かの幸せは誰かの不幸なのだろうか。なんてことを今作で強く感じた。今はSNSで自分の日常を簡単に発信できる時代。そしてそれを誰もが簡単に見れる時代。旅行に行ったよ!新しいバッグ買ったよ!と発信することは本人にとっては当たり前の日常でも、他人から見ればとても羨ましく妬みの対象になるのかもしれない。怖いよね。

 

世界中の人々にSNSなどで自分の日常をさらけ出さず、自分の好きなことをする時間をとって、日々淡々と過ごすことが実は一番幸せなのでは無いかと思う。だって上を見ればキリがないし、下を見ればキリがない。だからどうしても比べてしまう対象をSNSなどを通して見ないことはとても大切。

 

人と比べない。よく言われる言葉だし、みんなそんなこと分かっている。でも人間だからどうしても比べてしまうよね。そんな環境を自分の中から少しずつ排除していく。そうすると少しは生きやすくなるのかな。