誰か 宮部みゆき レビュー ネタバレあり
数年前に読んだ本なのに内容を完全に忘れてしまっていた。当時私がどういう感想を持ったのかは覚えていないが、今回再読して心揺さぶられたシーンがいくつもあった。
“誰か”
この表題の意味は何なのだろう。読み終えた後にp.402に戻る。
人は一人では生きていけない。どうしようもないほどに、自分以外の誰かが必要なのだ。
これが全てだろう。
今作の主人公の杉村三郎は妻と娘との3人暮らし。妻は大会社の会長の娘で、そのおかげで杉村家は裕福な生活ができている。幸せな暮らしの中で義父今多嘉親の運転手、梶田信夫が自転車に撥ねられて亡くなった。犯人はまだ捕まっていない。梶田氏の娘二人が犯人を見つけるために父についての本を出したいという。
三郎は自転車の轢き逃げ事故、梶田氏の過去を調べていくうちに様々な人と出会い、様々な過去を知ることになる。生きていると自分が意図せずとも色々なことが起こる。時として人を傷つけ、裏切り、そしてその逆も然り。
自分の身に起こったことは消せない。忘れたくても忘れられないこともある。生きていくことってそれを全て背負うことなのだと私は思う。こんなに辛いことがあった、悲しいことがあったと人に言いふらして同情を求めるのも一つの生き方。全てを背負って自分の中で着地点を得て人生の糧にするのも一つの生き方。自分はどう生きたいかを考えさせられた。
自転車事故を起こした少年
父を殺してしまった野瀬祐子
野瀬祐子の父の遺体を埋めた梶田夫妻
大会社の会長今多嘉親
梶田聡美
皆それぞれの過去があって、生きている限りはそれを背負っていくしかない。後悔したり、辛く悲しい気持ちになることもあるだろう。だからこそ自分以外の“誰か”が必要なのだ。自分以外の誰かに聞いてもらったり、見守ってもらったり、見届けてもらったり。
自分なんて家族もいないし一人だよ・・・なんてことは決して無くて、誰かが必ず見守っている。辛い渦中にいる時はその誰かに気付けなくても。
そして、家族であっても血が繋がっていても離れた方がお互いに幸せになれることも多々ある。梶田聡美には心から幸せになってほしい。