mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

不連続の世界 恩田陸 レビュー ネタバレあり

数ある物の中から何に注目するか。自分の持っている物に注目するのか、それとも持っていないことに注目するのか。そんな小さなことで人生が幸せに感じたり、不幸に感じたりもする。

人間の思い込み、思い違い、勘違い、目の錯覚によって見える世界が違う。なんだか不思議な気持ちになる短編集だった。

木守り男
いやーこの木守り男という字にすっかり騙されてしまった。“こもりおとこ”という言葉の言葉遊び。表題にまんまと騙され、ずーっと木を守っている男かと思っていた。木守り男=こもりおとこ=子守り男という言葉遊び。

売れっ子作家の田代が関わっている悪事が明らかになるが、その目印がまさかのアレだとは誰も思わないよね。

悪魔を憐れむ歌
聴くと死ぬ歌がある。不思議な魔力を持ったボーカリストセイレン。音楽プロデューサーの多聞はセイレンのことを調べ始める。セイレンの正体、セイレンの声を聴いて死んだとされる人々がなぜ死んだか。そしてセイレンはどうなったか。じわじわと真相が語られる様が淡々としていてシンプルに怖かった。

それにしても多聞って得な存在だよね。どこにも属さない、誰にも敵意を向けられない。すごく生きやすそうでいいなぁなんて。

幻影キネマ
人間の記憶は当てにならない。子供の頃の記憶はなおさら。杉原保は、映画のロケを見ると悪いことが起こると思い込んでいる。映画のロケを見た2、3日後に周りにいる誰かが死ぬというのだ。だから再び映画のロケを見てしまい保は恐怖に苛まれる。

映画のロケの後に人が死んだのはたまたまで、保は自分の見たいように世界を見ているに過ぎない。けれど保の思い込みによって自身は怯える。そして一番怖かったのは子供の頃に見たとされる8ミリ映画の話。子供の頃体験した恐怖がそんな形で残っていたなんて。

砂丘ピクニック
多聞と友人の巴は、ある本の内容を確認したいという目的でT砂丘に訪れる。そこで美術館に立ち寄るが、美術館で人が消える。単に見逃しただけなのか?それとも・・・

人の消えたトリックはとても面白く納得。目的は不明だけど。人の記憶は当てにならないし、何かに執着したり思い込んだりすると周りが見えなくなる。だまし絵を思い出した。

 

夜明けのガスパール
妻と別居中の多聞。いや、結婚したの?いつ?しかもお相手はあの人だ!ってまず大混乱。でも別居中か。何があったの?

妻が急に出て行った。実家まで迎えに行くも妻には会えない。そのうち写真だけを送ってくるようになる妻。妻はどうしたいのだろう?と悶々としている多聞を友人が夜行列車の旅へと誘う。そこで多聞に起こっていることが明らかになっていく。

これ、本当面白かった。多聞が父のショックによって自分の見たいように世界を見ているだけだったんだ。思い込みから来る妄想。でも多聞って周りの人に本当に愛されているんだな。

全ての短編を読んで思ったことは、人生なんてただの妄想、思い込みなんじゃないだろうか?ということ。自分が見たいように世界を見て、自分で世界を作っていっている。そう思うと今悩んでいることも自分自身が作り出しているのかもしれない。