mooncatの図書館

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スロウハイツの神様 辻村深月 レビュー ネタバレあり

こんなに読後感の良い作品は久しぶりだ。

夢を追いながら共に刺激し合い、励まし合いながらスロウハイツで生活をする仲間達。漫画家の卵、画家の卵、監督の卵。皆それぞれクリエイティブな夢を持つ。頑張ったところで芽が出るかどうかは分からない。順調に行っているように見える仲間を見ると嬉しい反面、焦りが出たり。とても素直で人間らしい描写が多く、序盤でグッと心を持っていかれた。

クリエイティブな仕事をする以上、人と同じでは務まらない。それぞれの登場人物の個性が豊かでそれもまた楽しめた。一番気の毒だったのは加々美莉里々亜かな。注目を浴びたいがために他人を利用するも、結局は他人から利用され使い捨てられる存在。気の毒だけど自業自得。環の『世界と繋がりたいなら、自分の力でそれを実現させなさい』という言葉が刺さった。

さて、今作の表題『スロウハイツの神様』。スロウハイツの神様って一体誰だったのだろうか。色々な捉え方があるだろうが、環にとっての神様はコーキだったり、コーキにとっての神様は環だったり、正義にとっての神様はスーだったり。誰かが誰かにとっての神様だったのではないかな。スロウハイツで生活することによって互いに刺激し合い、その人の存在や関係によって紡ぎ出された作品によって努力が報われたように私には思えた。だからエンヤはもったいなかったな。辛くても出て行って欲しくなかった。

そして今作で一番の目玉はなんといってもコーキと環との関係。最後の伏線回収は目を見張るものがあったし、それはそういうことだったのか!と大興奮。テレビもケーキも図書館に入荷したコーキの作品も。自分がラッキー!と思っていることも、自分の知らないところで誰かが動いてくれていることかもしれないよね。環がこのことを知ることはあるのだろうか?もし知ったらどんな反応をするだろう?読後感がとても良く、心が温かくなる作品だった。