mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

向日葵の咲かない夏 道尾秀介 レビュー ネタバレあり

本の裏表紙を見て、大体こんな感じのお話なのかな?と想像して読書を始める。

自分の思った通りのお話のこともあるし、違ったなと思うこともある。今作は思いっきり裏切られた。裏表紙を読むと、同級生が首を吊って死んだ真相を究明していく。名探偵コナンの少年探偵団を想像して読んだがまさかの展開に気持ちが追いつかなかった。

同級生S君が首を吊って死んでいるのを見つけたミチオ。周りの大人に知らせるもS君の死体は忽然と消えてしまう。そして死んだS君は蜘蛛に生まれ変わってミチオの前に現れる。自殺なんかじゃない、殺されたんだというS君の訴えにミチオは妹のミカとともにその真相に迫るお話。だと思って読んでいたら、まさかのね。

母親に虐待されているミチオは、心を閉ざして自分の妄想の世界に生きることでなんとか自分を保つ。蜘蛛に生まれ変わったS君も妄想。そしてミカの正体がトカゲだなんてね。でもミカは最初から怪しかったよね。こんな大人びた落ち着き払った3歳なんている?どういうこと?と思って読んでたけれど、こんなどんでん返しがあるなんて。

“普通”に生きるって難しいよね。でも生きている限り、公共の場では“普通”をある意味みんな演じている。人に迷惑をかけないように、おかしいと思われないように、みんなと同じように。今作ではみんな“普通”に生きているようで、みんな普通ではない。動物虐待をする者、死体の骨を折る者、児童ポルノ好きな者、子供を虐待する者。そしてこういう欲求をどこか正当化してしまうほどに皆病んでいる。

今作は前半はサラサラと読みやすいが、後半の数十ページは頭の整理が追いつかないほどに色々な真実が明らかになっていく。ミカがトカゲだったり、ミチオのお母さんがどうして虐待するようになったかということだったり、S君が死んだ時の状況だったり、S君の死体の場所だったり。そして最後の最後のページでまたゾワゾワして読了。結構救われない話だったし、好き嫌いが分かれるとは思うけれど私は嫌いではない。夏の夜に読むにはぴったりだ。