mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

夢にも思わない 宮部みゆき レビュー ネタバレあり

 

中学生の淡い恋愛ものなのかな?という期待を見事に裏切ってくれたこの作品が好きだ。

物語の初めは、主人公の緒方くん。お友達の島崎くんに、片想い中のクドウさんとの関係にいいなぁ、若いなぁ、かわいいなぁという思いで読んでいたのにまさかの殺人が起こる。緒方くんと島崎くんはその究明に乗り出し、殺されたクドウさんのいとこは未成年の少女売春組織に関わっていたことがわかる。なんだか中学生の手に負えないくらい大事じゃないか。

ただの殺人ではなく、根本は少女売春組織内でのいざこざ。なのに彼ら主人公が中学生だからだろうか。物語に重々しい雰囲気はあまりない。サラリ、サラリと読めてしまうほどに軽い。クドウさん、なんかあるなぁ、怪しいなぁなんて言動が節々にあるよね。島崎くんと付き合っていたのに、すぐに緒方くんとも付き合い始めるあたりクドウさんって意外と何にも考えていない感じ。そしてきっとクドウさんみたいなタイプって例え女子に嫌われたとしても異性には好かれるし、大人になってからもずーっと得するタイプだろうなぁ。世渡り上手だよ!

最後、クドウさんの本性というよりも考え方の本質が明らかになるけれど、うん。自分さえ良ければいいって考え方をする人って大人でも多々いるよね。怖かったから、あの人なら大丈夫かと思った。そして自分の立場が危うくなると他人のせいにする。どこかで修正しないと本当に取り返しのつかないことになるから、緒方くんが離れた時点で気付いてくれるといいなぁとクドウさんの行く末だけが気になった。

誰が悪いかと言えば、亜紀子だって悪いし、亜紀子の家族だって悪いし、亜紀子を殺した畑山稔も悪いし、少女売春組織の構成員も悪い。悪い人は多数出てくるのにクドウさんの心の悪にスポットが当たるような書き方はさすがだ。とはいえクドウさんはまだ中学生。怖い目にあった時にどういう判断をすべきか分からなかったんだろうなとも思うし、殺人事件にまで発展するようなことになるなんて夢にも思わなかったのだろう。

どことなく米澤穂信先生の『氷菓』に似ている感じがした。久しぶりに読んでみたくなった。