mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

いつか陽のあたる場所で 乃南アサ レビュー ネタバレあり

人には誰しも背負っていることの一つや二つはある。過去は変えられないし、どんなに悔いても時間は戻らない。前を向いて生きていくしかないけれど、自分が前科持ちだったらどうだろう?

前科持ちの女性二人、芭子と綾香。出所してからのお話だ。3部作の構成なのだが、知らずに私は3冊目から読んでしまった。なのでこちらの1冊目からまた読み直した。3冊目のレビューはこちら。

 

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自分の周りに前科持ちの人がいたら正直怖いと思うし、避けてしまう。関わりたくないとさえ思う。でも前科持ちと知らなかったらお付き合いができるかもしれない。そういう人の気持ちが分かるからこそ、芭子は異常なほどに人目を気にするのだ。目立たないように、人とあまり関わらないように、でも生きていくお金は必要だからできるだけ人と関わらないような仕事を見つける。

一方綾香は自分のパン屋さんを持ちたいという夢に向かってパン屋さんで働く。にひひひと歯をむき出しにして笑ったり、魚屋さんに恋をしたり、芭子と近所に越してきた男性をくっつけようとしたりとどこか芭子とは対照的だ。そんな二人のやり取りが暗い過去に少し光を照らす、そんなお話だった。

人は一人では生きられない。お嬢様育ちの芭子は逮捕されると同時に家族から縁を切られる。刑務所暮らしの時に手紙や面会もなく、身元引受人も拒否され、最後には分籍される。芭子の家族は芭子よりも何よりも世間体が大切なのだ。それでも近所に住む人達に見守られ、お節介を焼かれ、自分と同じ境遇の綾香がいて。騙されたり、嫌な目に合いながらも懸命に生きようとする様が読んでいてとても心地が良かった。

どう生きていくか。過去は変えられないけれど、今からなら自分をどうにでも変えていける。夢を持って突き進む人生も素晴らしいし、今の生活を大切に小さな幸せを見つけていく人生も素晴らしい。続編もあるので芭子と綾香がどのように変化していくのかを見守る気分で読みたいと思う。