すれ違う背中を 乃南アサ レビュー ネタバレあり
小説の中の登場人物とお友達になってみたいと思ったことはないだろうか?
週末前だし、プレミアムビールを片手に芭子の家に遊びに行きたい気分だ。芭子と綾香と3人でビールを飲みつつ、大石のおばあちゃんの作ったご飯と商店街で買ってきたお惣菜をつまみたい。
この作品は前科持ちの芭子と綾香が出所してからのお話。3部作中の2冊目だ。
1冊目のレビューはこちら。
今作では綾香が商店街の福引きで大阪旅行を当て、芭子とともに大阪へ。何だか楽しそうな展開だ。知っている人がいないので芭子も久しぶりに開放感を味わい、気持ちも前向きに。そんな楽しい旅行中に綾香の昔の友人と偶然にも出会ってしまう。過去を知る友人は、もう地元には帰ってくるな。という言葉を投げかける。
そんな中でも綾香はパン屋さんを開くために努力をし、芭子は犬の服を作るという自分の好きなことを見つける。自分は幸せになってはいけないのではないか?という日々の葛藤の中、自分が生きること、幸せになることを諦めずに日々を淡々と過ごす姿に胸が詰まった。
生活をしていく中でいろんな人との出会い、別れがあるが、コスモスことまゆみさんは強烈だった。こんなに可哀想な自分を見て!と同情を誘い、注目を浴び、素知らぬ顔で人の人生を振り回す。人の人生を踏み台にして、踏み躙ってまでも自分が得をすることを選ぶ。あぁ、こういう人いるわ。犯罪を犯していなくても、犯罪者よりよっぽどタチが悪い。乃南先生は底意地の悪い女性を描くのが上手だよね。でも最後の展開は痛快だった。
芭子と綾香は今日もどこかで肩を並べてビールもどきを飲み、美味しいご飯を食べているのだろうか。小さな幸せを見つけているだろうか。芭子はミシンをカタカタと踏んでいるだろうか。綾香は次はどんなパンを焼くのだろうか。そう思わずにはいられない。