mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

プリズム 百田尚樹 レビュー ネタバレあり

こんなことって本当にあるのかな?と半信半疑に読んでいたはずなのに、どんどん先が気になって一気読みする。百田先生の『モンスター』もそうだった。

家庭教師として働く聡子。その家で不思議な男性と出会う。見た目は同じなのに、会う度に違う表情、違う名前を名乗られる。あれ?ご兄弟なのかな?双子?どういうこと?と最初は混乱したが、なるほど。解離性同一性障害というかつて多重人格障害と呼ばれた精神病だということ。うーん、そういう人に出会ったことがないからピンとこない。

岩本広志という人物の中の一人、村田卓也に聡子は心惹かれていく。こんなことが実際に起こり得るのかどうかは別として、絶対に幸せになれないと分かっているのにという気持ちと、岩本広志が村田卓也として生きていく術はないのか?とモヤモヤとしながら物語は続いていく。単純な恋愛小説ではなく、過去のトラウマ、多数の人格を持っていることへの恐怖、いつどのタイミングでどの人格が姿を現すのかという期待。岩本広志の中にどんな人格が存在するのか。一筋縄ではいかない恋愛模様に目が離せなかった。

最後は解離性同一性障害はおそらく完治し、村田卓也は岩本広志に統合される。病気が治ったという点ではもちろん喜ばしいことであるし、これから先広志は困難ではあるが社会に少しずつ復帰するのであろう。そして今まで出会ったことのない人に出会いきっと誰かを好きになったりもする。何となくそれは聡子ではない気がする。

人は誰しも自分の中にいろんな自分を秘めている。女性なら一人の女性として、親として、妻として、誰かの友人として。もしかしたら自分でも気づいていない自分が自分の中にいるかもしれない。解離性同一性障害と診断されなくても、誰しもがそういう一面を持っている。ふと、自分の中に自分の知らない自分がいるような気がして不思議な感じがした。

今までに何度か多重人格の小説を読んだことがあるが、最後は腑に落ちないというか、それ多重人格っていう一言で終わらせていいの?という作品が多く不完全燃焼になることが多かった。でもさすがは百田先生の作品。飽きることなく、不完全燃焼感もなく、最後まで楽しめた。