mooncatの図書館

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長い長い殺人 宮部みゆき レビュー ネタバレあり

小説の多くの語り手は自分、そして自分の身の回りの誰かだ。稀に動物が語り手のこともある。しかし!度肝を抜かれた。今作の語り手はまさかの『お財布』。

あたしはバッグの底で祈るしかなかった。
彼女は働いてあたしを一生懸命膨らませようとしていた。

なんて表現がおかしいはずなのに、妙に癖になって読み終えるのが惜しいほど。色々な登場人物のお財布目線で話は進んでいく。殺された者、刑事、疑う者、探偵など。どのお財布も個性豊かでまるで生きているかのよう。

殺人の容疑がかかっている森元法子と塚田和彦。怪しいのに二人ともに完璧なアリバイがあり、証言者もいる。どういうことなのだろう?と先が気になり一気読みだったが、トリックと犯行動機が分かって愕然とした。そして宮部先生の『模倣犯』を思い出した。ピースとヒロミが今作にもいる!

人は誰しも少なからず『何者』かになりたがる。有名になりたい、たくさんの人にすごいと思われたい、認められたい、人の上に立ちたい、お金持ちになりたい。そのために人は何かを頑張ったりするのだが、犯人は有名になりたい、名声が欲しいがために犯行に及ぶ。実際に犯行に及んだのは三木一也という何の能力も無く、努力もしないくせに承認欲求だけがやたらと強いかわいそうな男性。指示をしたのは塚田和彦。

なんだかなぁ、他人の承認欲求ために殺されるなんて悲しすぎる。人に認められなくても、有名にならなくても、ただ淡々と毎日小さな幸せを見つけて生きていけばいいし、生きる意味なんて大きなことを考えなくてもいいのに。毎日を積み重ねる、そのことに意味があるのに。なんてことを思いつつ、また宮部先生の『模倣犯』を読みたくなった。

登場人物が多く、あれ?これ誰だったかな?と読み返しつつも最後はパズルのピースがスッキリとはまり気分良く読了。『模倣犯』よりはライトな感じ。夏休みは『模倣犯』を読んでゾクゾクゾワゾワしようかと思う。