mooncatの図書館

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禁猟区 乃南アサ レビュー ネタバレあり

乃南アサ先生の警察官ものと言えば音道貴子シリーズが好きだ。この小説のどこかに出てくるのでは?と期待していたのだが、そんな期待を忘れるほどに監察官という組織が興味深かった。監察官とは警察官を取り締まる組織。そりゃ、警察官だって人間だから悪事を働くこともあるよね。

さて、今作は4編からなる短編小説集だ。女性監察官沼尻いくみの成長も見逃せない。

禁猟区
ホストにハマる警察官、若山直子が主人公。お気に入りのホストをナンバーワンにしたい、そのためにはお金が必要。高級なシャンパンを入れて売り上げに貢献したい。他の女性客がシャンパンを入れているのなら、それよりもっと高価なシャンパンを入れたい。そのお金を不正に他のホストクラブやお客さんから巻き上げる。そこまでしても彼は自分のものにはならないのに・・・まるで一生取れないようなクレーンゲームをしているようだ。

ホストは期待を売る仕事。自分のこと好きなのかな?自分のことを特別だと思っているのかな?と思わせるのが仕事。堅い仕事をしているのに、いや堅い仕事をしている故に行き着いてしまった安息の地がホストクラブだったのだろうか。

 

免疫力
こういう結末は悲しいというのが率直な感想。ヤクザはヤクザということなのか。自分の息子が悪性リンパ腫を患ったとなると、藁にでもすがる気持ちで色々と試したくなるのが親。高価なものであっても病気が治るのなら安いもの。試した健康食品のおかげで息子の病気が治ったと信じている風祭(かざまつり)。その風祭の善意が踏み躙られる最後は残念だった。

警察官の言うことなら信じられると思う人だっているわけで、その立場を利用されたのは何だかなぁ。風祭が悪意を持ってしたことでも無いのに。

 

秋霖
万人に好かれる人なんていないけれど、こうも人から嫌われる人って滲み出る何かがあるんだろうな。と小池を見て思わずにはいられなかった。そして部下を陥れていく様が見ていて本当に気分が悪く、よくもこんなことが言えるなぁと呆れた。

それにしても物的証拠を手に入れるために、それを自分で捏造するという考えに結びつくのが凄いね。こんなことされたら誰もが犯人になり得るし、無実の罪に問われる可能性もある。その性根にゾッとした。4編の中で一番後味が悪かった。

 

見つめないで
女性監察官沼尻いくみがストーカー被害に遭う。犯人は途中で予想がついたけれど、やっぱりあの人か。思い込みが激しくて、そんな理由で人を殺そうとまでするかな?そして沼尻いくみも初期の段階で相談できなかったのかな?警察官なのだから。と何だかモヤモヤ。

一時の感情で自分の人生を棒に振る人たちをたくさん見ているはずなのに、その経験を自分自身に活かせない犯人が哀れで気の毒だったな。

全体を通して女性監察官沼尻いくみの活躍の場がほとんどなく、もっと成長する様が見たかったなというのが率直な感想。さらっと読める短編小説集としておすすめしたい。