mooncatの図書館

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蹴りたい背中 綿矢りさ レビュー ネタバレあり

昨日の芥川賞受賞発表に合わせて、蹴りたい背中を読んだ。蹴りたい背中芥川賞を受賞したのが18年も前ということに驚いた。

誰もが口にすることはないがスクールカーストというものは存在する。今作はスクールカーストの表現がとても緻密で、そういえばそんな物もあったなと思いつつ自分自身も高校生にタイムスリップしたかのようになった。スクールカーストのトップに立つのは女子の場合、可愛くて少し派手な子だ。彼女たちを中心に学園祭や運動会などのイベントは周っていく。そして逆にクラスからはみ出してしまう子も漏れなくいる。挙句に一度決まってしまった自分の地位は、そう簡単には変えられない。クラス替えや卒業までずっと同じだ。

学校を卒業すればスクールカーストなんてものは無くなるし、そんなことがあったことすら忘れてしまう。社会に出て数年もすればスクールカースト最上位に君臨していた人が見事に転落しているのも珍しいことではないし、逆にスクールカースト最下位の人がより良い人生を送っていることも多々ある。良い人生を送っている人はわざわざ同窓会にも行かないので、それを知る術がないのも事実ではあるが。

さて、今作ではスクールカースト最下位に位置するハツとにな川の微妙な関係が読んでいてとても心地良かった。恋愛でもなく友情でもなく、この関係をなんと呼べばいいのだろう。にな川がハツを自宅に招いたり、ハツがにな川の唇に触れたりと大胆な行動をとる一方、同じ空間では向き合うことなく別々のことをしている。クラスに馴染めないという同じ境遇だが、ハツはそれをすごく気にしている一方、にな川は気にも留めない。同じ位置なのに正反対。この関係が好きだ。

ハツとにな川が恋愛関係にあるのなら、きっと今作の題名は『蹴りたい背中』ではなく触れたい背中あたりが妥当だろう。なぜ蹴りたい背中なのか。ハツはにな川に対して幾度も傷つけたい衝動に駆られている。にもかかわらず、唇に触れたり、にな川が風邪をひいた際にはお見舞いに行ったりもする。ハツは分からないのだ、自分の気持ちが。嫌いではない。きっと好き、だけどにな川が見ているのはいつもオリちゃんだけ。もどかしいのだ。きっと好き、だけど持っていきようの無い気持ちを蹴ることで発散させているハツが愛おしくて仕方がなかった。

私もハツとにな川のクラスに潜り込んで、二人の微妙な関係性を温かく見守る絹代のような位置に居合わせたいものだ。きっとハツとにな川が恋愛関係に発展することはないだろうし、高校を卒業したらもう会うことも無いのだろう。だからこそこの二人の関係性は貴重なのだ。懐かしいようなむず痒いような二人の関係性、やっぱり好きだ。