mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

朝が来る 辻村深月 レビュー ネタバレあり

島国だからだろうか。日本は血縁関係や家をとても大切にする。

好きで個人と個人が結婚するのに、結婚式では○○家、××家と謎の表記がされたりもする。個人の結婚なのに家と家が繋がるような変な風習だと私は思う。

さて、今作では子供を望むのに子供を授からない夫婦が特別養子縁組という選択をし、他の女性が産んだ子供を我が子として育てるお話。子供を持つ持たないは各家庭の自由であるし、どちらが良いとか悪いとかいう問題ではない。結婚したら子供を持つのが当たり前ではないし、子供は作らないの?という質問は悪気がなくても他人を酷く傷つける場合も多い。

物語前半では佐都子、清和夫婦が辛い不妊治療の末、特別養子縁組の選択をするまでの苦悩、そして子供を引き取り幸せに暮らしているお話だ。私自身の知識不足でもあるが、不妊治療の精神的肉体的な辛さ、そして不妊治療に保険が適応されないことを知った。特に不妊治療の苦悩の描写は読んでいるのが辛く、こんなに頑張っているのだから何とかして子供を授からないのだろうかと涙が止まらなかった。

一方で子供を産んでも育てられない人もいる。金銭的な困窮から、母親が未成年だからと理由は様々だ。育てられないなら産まなければいいと言うのは簡単だが、産まれてきた命をどうするかということは中々語られないことである。今作では中学生のひかりが妊娠をし、気づいた時には中絶ができない状態であった。

ひかりが産んだ子供を佐都子、清和夫婦が引き受けて育てる。養子をもらったことを周囲に隠さず、子供にも伝えて育てる。三人の家族は金銭的にも恵まれ、愛情に包まれ幸せそのものだ。血縁関係がなくても、家族になろうと努力するから家族になれる。逆に血縁関係があっても家族になる努力を怠ると、同じ家に住むバラバラの家庭が出来上がる。血縁関係とは?という疑問が湧き上がる。

ひかりが育った家庭と佐都子、清和の家庭が対照的で、ひかりがより家庭に恵まれていなかった、いや親に恵まれていなかったことが浮き彫りになりその後の転落は見事なものであった。親は選べない。もっとまともな親だったら、もっと子供のことを考えられる親だったら・・・なんて思うけれどそこはもうどうしようもないよね。

朝斗と名付けられた子供が佐都子、清和夫婦の人生に光を灯したように、ひかりの人生にも光を灯すような最後に救われた。終わったことは、過去は変えられないけれど少しのきっかけで人生は絶対に好転する。

今作を読んで、特別養子縁組という制度を知った。それに伴う問題もあるだろうし、偏見もあるだろう。だからこそこのような制度を広く知ってもらいたい。養子をもらうということが当たり前として認識されるようになってほしい。そう願わずにはいられない。