mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

水底フェスタ 辻村深月 レビュー ネタバレあり

 

臭いものに蓋をする。

 

いじめは無かった。いじめに気付かなかった。いじめを苦に自殺した生徒を前に、そんな無責任な教師や校長の声が聞こえてくるような気がした。

 

閉鎖的な湖畔の村、睦ッ代村出身の織場由貴美は村を離れ上京し芸能界で成功していた。そんな彼女が村に帰ってきたのは村に復讐するためだった。

 

閉鎖的な村に住んだことのある方なら分かると思うが、村という狭い世界に住んでいる人にとっては村が全てだ。権力者に媚びへつらい、都合の悪いことは無かったことにする、見て見ぬふりをする。何を隠そう私自身が狭い閉鎖的な村出身なので、読んでいてそうだよなぁと思うことが多々あった。

 

その土地に生まれてしまったことは変えられない事実なので、とにかく早く大人になってどこか遠くの地に行きたい、その気持ちだけで幼少期を乗り切った。生まれ育った土地を離れて20年、その土地に再び足を踏み入れたことは無い。親を殺されたわけではないが、由貴美の村を恨む気持ちはなんか分かるなぁ。あの視野の狭さと、自分が一番正しいと思っている村人たちと、ちょっとした出来事でもあっという間に村全体に情報が広がってしまうあの閉塞感に耐えられないのだ。

 

本作では村長の息子である広海(ひろみ)視点で物語は進む。村の悪しき習慣に染まっていないかのように見える広海も、由貴美が村の選挙の不正を暴くと言った際には村長である父親の任期が終わってからにしてほしいと言うところからあぁもう染まってしまっているんだなと窺い知れる。

 

村の不正を暴いて村を解放するのが正しいのか。郷に入れば郷に従え、とばかりにその不正は当たり前のこととして受け流すのが正しいのか。それに我慢ができないのなら村を出ていけばいいのか。私個人としては他人を変えることはできないのだから自分が嫌ならその土地を離れればいいと思う。由貴美も由貴美の母親も村に固執しすぎ。

 

最後はおそらく広海が村の選挙の不正を暴くのだろうけれど、明るい未来は想像できない。広海の父親は村長を辞めさせられるだろうし、広海の家族や親戚はバラバラになってもうこの村には住めないだろうし、村全体でお互いに人々が憎しみ合うようになるだろう。この村に関してはもう不正を暴かずに、悪い意味で平和主義の馬鹿の村として認識し自分だけそっと離れるのが一番かな。

 

個人的に一番面白かったのは美津子が水色のバーキンを提げて由貴美の家に何度も通ったと知った時!村でバーキン!(笑)いや、もうね誰が何を持とうと知ったことじゃ無いけれどそれじゃない感が半端ない!バーキンが泣いているでしょうね。お金があれば買えるものだけどさ、やっぱり身の程を知ろうよ美津子さん。。。バーキンが可哀想。

 

なんてどうでもいいところに注目してしまったけれど、最後まで救いがない感じが辻村先生らしく無いかな?なんて気がして意外だった。