あやし 宮部みゆき レビュー ネタバレあり
昔の人は、霊やら迷信やらを信じていたらしい。
時は江戸時代。科学も医療も発達していない時代だからこそ霊やら迷信が信じられていたのだろう。
今作は9作の短編集からなる。どれも霊、鬼、病がキーワードとなるが私は『安達家の鬼』が好き。鬼って怖い、危害を加えてくるものという印象だったらその印象をガラリと覆す作品。
お義母様の人の見る目は確かだと言われている。それはお義母様の後ろにはいつも鬼がついているから。善良な人間には鬼はか弱く、頼りないようにも見えるが、悪い人間には牙を剥くように見える。
鬼は言わばその人の本質を写す鏡なのだろう。
もう一作品、とても好きなのが『時雨鬼』
奉公人として働く若い女の子お信が男と恋仲になり、もっとお給料の良い料理茶屋で住み込みの仲居をするように迫られる。
料理茶屋に行ったら最後は女郎となるしかないが、お信にはそれが分からない。彼は本当に自分を愛してくれているのか?仲居とはどういう仕事なのか?不安になり人に相談したいと思った頃、口入所でおかみに化けた鬼と出会う。
「自分の欲のためなら、親切そうな優しそうな顔をして、平気で他人を騙したり、殺すことのできるような連中がいるんだよ。そういう奴らは、いかにも人間らしいきれいな顔の下に、鬼の本性を隠してるんだ」p.230
この鬼の言葉が全て。最後、雨が降って出来た水たまりに映った男の顔はどんな顔だろうか。お信はきっと踏み留まるだろう。
時代物は苦手で敬遠していたが、どの作品も面白かった。