mooncatの図書館

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深く深く、砂に埋めて 真梨幸子 レビュー ネタバレあり

 

もしあの時こうしていたら・・・

 

なんてことを考えたことはないだろうか。

でもきっと過去に別の選択をしていても結果は今と同じか、またはもっと悪いものだったのだろう。

 

今作は圧倒的美女、野崎有利子(のざきゆりこ)の存在によって人生が狂っていった男性のお話。エリートサラリーマンの斉藤啓介と弁護士の篠原賢一。

 

有利子が圧倒的美女でなかったら。

有利子が慎ましい生活ができる人だったら。

あの時斉藤が有利子と出会わなかったら。

あの時篠原が有利子と出会わなかったら。

 

言い出したらキリがないけれど、色々な偶然が重なり皆有利子に溺れていく。お金も地位も名誉も失われ、何もなくなると有利子は去っていく。生活水準を上げると、それを下げるのはなかなかに難しい。有利子は贅沢が好きだ。贅沢は美徳、貧乏は悪。お金がなくなったら自分を売ってお金を得る。

 

有利子には美貌しか無かったのが一番の不幸の原因ではないだろうか。

 

美しく生まれた。それだってもちろん才能だとは思うが、芸能界に入ったときに歌や演技の勉強をしたり、何か一つ自分が頑張れることがあったら・・・きっと有利子は自分を売ることなく心から愛した斉藤と幸せな生活を送っていただろう。

 

愛されたい、幸せになりたい、お金が欲しい。人間が持ちうる当たり前の感情だが、それが皆空回りしてしまっているのが見ていて悲しくなった。でもいつもの真梨先生の作品とは一風変わってドロドロしたものを感じなかったのは、パリの美しい風景のおかげだろうか。

 

有利子を愛したことで全てを失い悪事に手を染めた斉藤だったが、無罪放免となり、元婚約者とよりを戻し、二人で起業をし再起を図っていることが救いだった。篠原は他人から見ると落ちぶれた人生だろうが、愛する人の最期を看取り約束を果たせたのだから幸せだったのかもしれない。

 

純愛ゆえの悲しいお話。

 

余談ではあるが、真梨先生の『女ともだち』に登場していた楢本野江(ならもとのえ)が今作にも登場していたのがなんだか嬉しかった。

 

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