mooncatの図書館

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クスノキの番人 東野圭吾 レビュー ネタバレあり

 

『家族』をテーマにした小説は苦手だが、本当に読んで良かった。

 

家族だから仲良くしましょう、家族だから話し合えば分かる。家族だから分かり合えて当然。家族だから・・・と理想の家族像を押し付けられるのが苦手なのは、私自身が家族に恵まれなかった側の人間だからだと思う。自分が結婚するまでは、家族なんて自由に縁を切れればいいのに・・・なんてことを本気で考えていた。

 

今作では色々な形の家族が登場する。主人公の玲斗(れいと)の母親はホステスで父親は妻子のあるお客様。認知もしてもらえず、養育費も貰えない。玲斗は度々自嘲気味に自分なんて生まれてこなければ良かった人間だと言う。両親が揃っている所謂“普通”とされる家族であっても、実は父親は別の人だったり。結婚をせず一生独身を貫く人もいる。家族の形はそれぞれだ。

 

玲斗は自身の生い立ちから、どこか人生を諦めている若者である。お金がなかったから大学にも行けなかった。自分なんて生まれてこなければ良かった人間だと。親や生まれてくる環境は選べないし、今の日本では貧乏から抜け出すことは本当に大変だ。

 

昨今“親ガチャ”という言葉をよく耳にする。この言葉は本当によく考えられた言葉だと思う。私は親ガチャという言葉が嫌いです!と声高らかに言う人を見ると、さぞ恵まれた環境で何不自由なく生きてきた人間で羨ましく微笑ましくも思う。そう言える環境で良かったですね、と。

 

今作はクスノキに祈念をし、その念を家族が受け取るという少しスピリチュアル要素が含まれた作品。スピリチュアルはとても苦手な分野だが、家族が真に何を考え、何を伝えたかったのか、そしてそのクスノキの番人を玲斗が務める事によって成長する過程が見えて読んでいる間とても幸せな気持ちだった。

 

玲斗は千舟と出会うことにより、今までの荒んだ生活から脱却する。身なり、言葉遣い、所作や言動の全てを千舟に注意され直していく。千舟というお金持ちの親戚に出会えたからラッキーだね!ということではなく、玲斗の素直さがあったからこそだ。物語の最後では、玲斗の人間洞察力や行動力にあっと驚かされ、あの無気力だった玲斗がよくもここまで成長したねと母親目線で目頭が熱くなった。

 

血の繋がりに甘えてはいけない。血の繋がりがあっても家族と呼べない人々もいる。血の繋がりがなくても、家族になろうとお互いに思うから家族になれる。千舟と玲斗は最後本当の家族になれたよね。涙が止まらなかった。