mooncatの図書館

本が好きです。図書館に住みたい。読んだ本の感想文を書いています。

彼女がその名を知らない鳥たち 沼田まほかる レビュー ネタバレあり

本を読んでいてこんなに胸が詰まったのは久しぶりだ。

昔の恋人が忘れられない十和子は寂しさを埋めるため15歳年上の陣治と暮らし始める。食べ方が汚い、トイレをすぐに汚す、どじょうみたいなど、十和子が陣治を表現する様は何ともひどい。仕事から帰宅し、ご飯を作ってくれたり、マッサージをしてくれる陣治に対して十和子はいつも暴言を吐き続ける。側から見たら別れたらいいのでは?と思われる関係だが、これはこれで均衡が取れている関係なのだ。

目の前にこんなに自分に尽くしてくれる男性がいるにも関わらず、十和子は昔の恋人が忘れられなかったり、妻子ある男性と関係を持ったりと不安定な道を選ぶ。十和子はひどい女性だということは簡単ではあるが、彼女は自分が幸せになる勇気がないのだろう。自分なんてどうせ幸せになれない、幸せになっちゃいけないという考えが根底にあるため自らを不幸の道に追い立てる。目の前に、手を伸ばせば届くところに幸せはあるのに。

頑なに幸せになろうとしない十和子と対照的に陣治はできる限りのことを十和子にする。その危うい関係性に胸が詰まり、読むのがとても苦しかった。不幸になるのは分かっているのに楽な方に、自分の欲望のままに不倫に溺れていく十和子を見つめる陣治。陣治の一生懸命さ、ひたむきさに十和子の心に光がさせばいいのにと思いながらもうまくいかない。そして、最後・・・

陣治は十和子にできる限りのことをし、し尽くした末の行動だったのだろう。胸が苦しい。これから先、十和子はどうやって生きていくだろうか。陣治のことを思いながら悔いて生きていくのか、それとも・・・。